この2、3年、ポリエステル繊維の原料であるパラキシレン(PX)の生産工場建設プロジェクトに対する住民の反対運動が各地で発生している。大規模な運動としては、2007年6月に福建省厦門市、2011年8月に遼寧省大連市、2012年10月に江蘇省寧波市などで起きており、地方政府は建設延期、建設停止、建設地の移転などに追い込まれている。2013年5月には雲南省昆明市でPXを生産するのではないかと疑い石油化学工場建設に反対する住民の大規模なデモが発生しており、人々は毒性が高いとしてPXに対し極めて神経質になっている。
こうしたPX反対運動を『人民日報』など中国の官製メディアはこれまで隠すことなく、論説などを通じて触れてきたことは意外である。2014年3月30日に広東省茂名市で発生したPXに反対するデモについても『人民日報』は報じた。しかしその報道ぶりはこれまでとは異なっており注目した。そこには習近平政権のPX反対運動への対応の変化が反映されているように思われる。
それでは、茂名市での反対デモを『人民日報』はどう伝えたのだろうか。
「死者15名」のウワサを検証
4月3日付4面に、「茂名で『死者15人、負傷者300人』など一連のデマ」と題する記事が掲載された。「反対デモ事件」に対し、「死者15人、負傷者300人」「戦車進入」などのウワサがネット上で飛び交ったため、記者が主なもの3件について、その真偽を検証した記事である。
(ウワサ1)「事件は『死者15人、負傷者300人』をもたらした」
4月2日付の香港紙『東方日報』などが「死者15人、負傷者300人」と報じた。
これについて、市スポークスマンは「2人の負傷者は出たが、死者はいない」と回答した。
さらに記者は地元の人や病院への取材から、デモの経緯を次のように紹介している。
―午前9時、PXプロジェクトに不満を持つ80数人がデモを開始
―午後3時、一部の大衆が市党委員会の門前でペットボトルや生卵を投げ、車輌を止めて交通を妨害した
―午後8時、不法分子が車輌通行を妨害し、市党委員会の北門と東門に突撃した
―午後11時、違法分子が市党委員会東門付近に停車中のパトカーを焼き討ちにした