東日本大震災以降、日本は温暖化問題を忘れてしまったかのようである。だが、忘れれば温暖化が止まるというものではない。表裏一体であるエネルギー問題で揺れるなか、日本はどのような温暖化対策をとるべきか。今回発表された、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)報告書で日本からただ一人、統括執筆責任者として参加した筆者が、その本質を解説する。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、4月13日、ドイツ・ベルリンで開催された総会で新たな報告書を発表した。筆者は、日本からただ一人、統括執筆責任者として参加した。
(4月13日ドイツ・ベルリン、提供・AP/アフロ)
今回のIPCC報告書は、「地球温暖化を2度以下に抑制するシナリオ」(以下、2度シナリオ)について詳しく報告した。
一部報道では、「IPCCは、2度シナリオは実現可能であり、世界はそれを目指すべきであると提言した」というものがある。だがこれは間違いである。IPCCは「提言」はしていない。そもそも提言することは禁じられているからである。IPCCは、2度シナリオとは、どのような技術的対応を意味するかということ、および、その実現のための前提条件について記述している。
あるいは、「IPCCは、2度シナリオは安いコストで済むことを示した」という報道もあるが、これも誤りである。2度シナリオの実現のためには、現状からみると、技術と政治の両面で奇跡的ともいえる変化が必要である。これは不可能ではないが、決して容易ではない。
いわゆる「2度シナリオ」の骨子は以下のとおりである。
(1)地球温暖化を産業革命前に比べて2度以下に抑制することは、概ね、2050年までに世界全体で10年に比べて40~70%の排出量を削減することを意味する。このとき、再生可能エネルギー、原子力、CCS(発電所等から排出されるCO2を地中に埋める技術、Carbon Capture and Storage)の合計による低排出エネルギー供給は、10年時点の3倍から4倍に達する。
(2)2度シナリオが実現するための条件は、世界の国々が一致協力して排出削減に取り組むこと、および、多くの温暖化対策技術が進歩し普及することである。つまり国際協調と技術革新の両者が条件となる。