中国・訪日ブームの陰で気づいた
対日認識の根本的な欠陥

「知日」不足に悩む中国(前篇)


平野 聡 (ひらの・さとし)  東京大学大学院法学政治学研究科教授

1970年、神奈川県生まれ。東京大学法学部卒業。東京大学法学部教授。アジア政治外交史担当。著書に『大新帝国と中華の混迷(興亡の世界史17)』(講談社)、サントリー学芸賞を受賞した『清帝国とチベット問題 多民族統合の成立と瓦解』(名古屋大学出版会)がある。

チャイナ・ウォッチャーの視点

めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリストや研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。(画像:Thinkstock)

»最新記事一覧へ

2012年9月の尖閣諸島国有化に伴う中国の反日暴動から約2年が過ぎ、「尖閣諸島が領土紛争の地であって本来中国のものである」ことを国際的に印象づけようとする公船の侵入も半ば常態化してしまった。のみならず、同じ行為をベトナムやフィリピンにも振り向け、凄まじい緊張が引き起こされたことは記憶に新しい。

強まる中国の覇権志向

 したがってこれは、単に中国が日本との歴史的関係に強烈な不満を感じて抗議し、「中国の正しい立場」を日本人にも理解させる云々というものではない。中国が、既に強大化した自国の都合に応じて周辺地域を含む秩序を変え、中国が主導し圧倒する地域・世界秩序をつくろうとしているのである。

 習近平政権が掲げる「中国夢」外交の本質は、中国の超大国化・覇権国家化である。今年に入って繰り返されている「アジア人によるアジア人のためのアジア」という表現や、アジア開発銀行をよそに新たにアジアインフラ投資銀行を設立するという方針は、中国がアジアを代表して新しいアジアをつくるという意思表示である。また、去る7月の習近平のソウル訪問は、まさに「反日」という「共通の利益」を通じて韓国を中韓同盟に引き寄せようとしたものと明確に見て取ることができる。これは言わば、中国版のアジア・モンロー主義または東亜新秩序というべきものである。

 そして昨今の所謂「外資叩き」は、中国が外資を優遇してその経営ノウハウや技術力を吸収する時代が終わり、むしろこれからは「中国市場の恩恵に与りたい外国企業は、中国の求めに応じて制裁金を払え」ということなのであろう。これは即座に、かつての朝貢貿易=外国がひたすら恭順を示し、珍奇な品を貢納品として差し出せば、はじめて中国の恩恵がもたらされるという手法を想起させる。習近平外交の望みは恐らく、中国を再び世界に君臨し尊敬を受ける「天朝」にすることなのであろう。

世界最大の「親日」国家・中国?

 手前味噌で恐縮だが、筆者はこのような趨勢をいわゆる「五千年の文明史」とからめ、『「反日」中国の文明史』(ちくま新書)としてまとめさせて頂いた。そして、中国のこのようなやり方を日本が拒むためには、何よりも日本がこれまで通りに衆智を集め、ソフト・パワーとしての魅力を高めて世界に貢献し、国際社会を広く味方につけるしかないことを示した。

1
nextpage
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
「チャイナ・ウォッチャーの視点」

著者

平野 聡(ひらの・さとし)

東京大学大学院法学政治学研究科教授

1970年、神奈川県生まれ。東京大学法学部卒業。東京大学法学部教授。アジア政治外交史担当。著書に『大新帝国と中華の混迷(興亡の世界史17)』(講談社)、サントリー学芸賞を受賞した『清帝国とチベット問題 多民族統合の成立と瓦解』(名古屋大学出版会)がある。

WEDGE Infinity S
ウェッジからのご案内

Wedge、ひととき、書籍のご案内はこちらからどうぞ。

  • WEDGE
  • ひととき
  • ウェッジの書籍