チャイナ・ウォッチャーの視点

2014年9月18日

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平野 聡 (ひらの・さとし)

東京大学大学院法学政治学研究科教授

1970年、神奈川県生まれ。東京大学法学部卒業。東京大学法学部教授。アジア政治外交史担当。著書に『大新帝国と中華の混迷(興亡の世界史17)』(講談社)、サントリー学芸賞を受賞した『清帝国とチベット問題 多民族統合の成立と瓦解』(名古屋大学出版会)がある。

 そして実際中国の人々は、ソフト面では日本に多大な好意と感心を示さずにはいられない。尖閣問題の喉元を過ぎれば、中国市場に適応した日本企業の製品やサービスは売り上げを元に戻したし、日本語から翻訳された文化コンテンツの根強い人気は衰えることがない。上海地下鉄には、日本アニメ『ラブライブ』の全面ラッピング車両が出現し、中国の「御宅族」が側面に印刷されたQRコードを探してホームで跪くという奇観が伝えられもした。

 しかも、彼らの日本に対する絶賛は、ことによると「中国こそ世界で最も親日なのではないか」と思わせるほどである。筆者が見聞した範囲でも、彼らは深呼吸できる清潔な空気と青空を絶賛し、顧客至上のサービスに感動し、何事も平穏に秩序立っているさまに新鮮なショックを受ける。

 彼らは一応日本に到着するまでは、中国で反日暴動が吹き荒れたのと同じく、日本でも中国人であるがゆえに同じ被害を受けるのではないかと心配する。しかし実際にはそのようなことはないため、安心しきって日本を楽しみ、その見聞がブログや微博(ミニブログ)で事細かに語られる。そこで「ならば自分も、実際の日本はどうなのか。共産党のいう通りなのか見てみたい」という好奇心が加速度的に沸き起こり、日本旅行ブームが吹き荒れつつあると解釈できる(中国に限らず、急激な訪日客増加とネットの普及は切っても切り離せないだろう)。

 かくして中国では、日本・外国を訪問できる富裕層ほど、より日本を冷静に見ることができ、そうではない貧困層ほど日本・外国に対して、共産党の宣伝を真に受けて強硬になるという図式が明確にある。相対的に貧困な「憤怒青年」は、現実の中国社会で明らかに存在感を示すソフトパワー・日本を直接見ることができる富裕層への嫉妬も含めて、日本への反発を強める。富裕層は多かれ少なかれ共産党とつながっていることから、共産党はそんな社会的な不満をそらすためにも、少なくとも国益というレベルでは反日ナショナリズム・外国叩きに依存せざるを得ない、と解釈することもできる。 

「対日新思考」と「対日統一戦線」原則思考の落差

 とはいえ、日本礼賛がそのまま「親日」を意味するのか。そうとも言い切れず、むしろ中長期的にみて複雑な効果をもたらすだろう。

 筆者の管見の限り、日中関係が余りにも悪いにもかかわらず敢えて日本を訪れようとする人々、あるいは日本を知りたいと考える人々は、現実の日本の姿に照らして、中共の宣伝や憤怒青年の反日暴動・言論に対して批判的である。そして、「中国の反日は日本人が批判するような全面的なものではなく、一部の非理性的な人々や不満分子が引き起こした動きに共産党が拘束されているものに過ぎず、基本的に中国の多くの人民は日本と共存し利益を享受したい」と考える傾向が強い。

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