世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2014年11月28日

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 10月16日付の英フィナンシャル・タイムズ紙にて、Geoff Dyer同紙ワシントン特派員及びEd Crooks同ニューヨーク特派員は、サウジアラビアは、石油価格の下落を放置することで、米国のシェール産業への悪影響はあるものの、地政学的、経済的に米国を利することになるだろう、と述べています。

 すなわち、石油に対する世界の需要が落ち込む一方米国の生産が急増している中で、サウジアラビアはOPECの指導者として石油市場を安定させるために産油量を削減する選択もあったが、石油価格の下落を認め、従来のバレルあたり100ドルに代わって80ドルで満足することを示唆した。下落が続けば、サウジアラビアの国家予算は赤字となるだろうが、サウジアラビアは膨大な額の外貨準備を持っており、当分の間収入減に耐えられると見られている。

 サウジアラビアは石油価格を下落させることで、米国にとって大いに歓迎すべき地政学的結果をもたらそうとしている。

 石油価格の下落は、欧米の制裁で苦しんでいるロシアの経済にさらなる問題をもたらす。イランの経済も石油価格の下落の影響を受けるだろう。ただし核交渉への影響は分からない。イランは石油価格の下落で、国際的制裁の緩和を一層望み、交渉で譲歩しようとするかもしれない。

 石油価格の下落はまた米国の消費者に直接の利益をもたらす。CitigroupのEd Morseによれば、バレルあたり80ドルは、米国の一家庭当たり600ドルの減税に相当するという。

 石油価格の下落はこのように米国にとって利益であるが、反面シェールオイル・ブームを減速させようという意図があるとも考えられる。

 石油価格が80ドル、あるいはそれ以下になると、米国のシェールオイル生産者の財政的負担になる。いくつかの生産者はすでに投資の削減を検討している。投資が削減されれば、来年の米国の石油生産の伸び率は減少し、石油価格がさらに低下すれば、生産量が本年より減ることもありうる、と報じています。

出典:Geoff Dyer & Ed Crooks ‘Saudi Arabia tests US ties with oil price’ (Financial Times, October 16, 2014)
http://www.ft.com/intl/cms/s/2/e2fd08c6-554c-11e4-b750-00144feab7de.html#axzz3GfFHCglP

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 上記解説記事は、サウジアラビアが石油価格の急落をそのままにしている背景には、対米考慮がある、と述べています。対米考慮の一つは、石油価格の下落を放置すれば、ロシアとイランが窮地に立たされ、これは米国の歓迎するところであるというものです。もう一つは、米国の消費者への好影響です。が、一方、米国のシェールオイル生産をけん制するものだという見方もあります。これは、今や石油生産高でサウジアラビアのライバルになった米国に対抗しようとする措置です。

 解説記事は、これらの見方のうち、米国を利する前者の見方を重視しています。

 これに関して、サウジアラビアの石油価格戦略が対米考慮に基づくものであるかどうかは証明できません。しかし、サウジアラビアにとり、石油価格の下落は財政に悪影響を及ぼすものであり、価格の回復のため減産措置を講じることもできたのですが、それをしなかったのは、やはり政策的考慮があったものと考えていいのでしょう。

 石油価格の下落は米国経済にとって朗報であり、米国の歓迎するところであります。もちろん日本にとっても歓迎です。

 戦略的には、ロシア、イランに打撃を与えることは米国の利にかないます。他方で、最近ようやく産出量の増えたイラクにとっても打撃であり、これは米国にとってマイナスです。

 これらの効果がどの程度のものとなるかは、石油価格の下落がどの程度続くかによります。長期化する場合には、影響はより深刻なものとなるかもしれません。

  
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