「少年院に入って来る子たちのほとんどが小学4年生程度の学力だと聞いて愕然としました。これは家庭環境の問題だけではありません。こうした現実を知れば我々教員は『おちこぼれ』なんていう言葉で簡単に済ませていいはずがないのです。この子たちは学校教育から『おちこぼれ』たのではなく、『おちこぼし』たのかもしれないと思ったのです」
茨城県教育庁生涯学習課 副参事の小沼公道は、そのショックがその後の活動の原動力になったと振り返る。
ただ、小沼も学校では9~10教科を教え多忙感を抱える教員が、勉強から生活指導等すべてを任され、時には保護者の教育までしなければならないケースも多々ある現実を知っている。また元教員でもありそれを自らも経験している。多様化する社会、複雑化する家庭環境の中で、ひとりの教員に出来ることには限度があるとも感じていた。
「でも、どこかでこの子たちを救う手だてはなかったのだろうか……」
「子どもの教育とは学校教育と家庭教育のどちらも欠くことができませんし、さらに学校でも家庭でも学べないことを地域が担う社会教育が大事なのです。社会全体で子どもたちを育成しようという考えです」
「学校教育の中では伝え切れなかった学ぶ喜びを、水府学院の子たちにも教えてあげられないだろうかと可能性を探りました」
こうして自らが手がける生涯学習のなかに、矯正施設用の講座を取り入れようと準備を始め、2007年から水府学院に生涯学習移動講座(8講座10回)を実施した。それは異なる省庁という壁を越える国内初の取組みとなった(その経緯や講座については「少年院でなぜラグビー? 茨城県・水府学院 密着レポート(前篇)」に記しておりますので、ぜひご一読いただきますようお願い致します)。
その講座のひとつに元ラグビー日本代表・常総学院ラグビー部監督(当時)石塚武生氏のタグラグビー講座があった。
社会と繋がる「タグラグビー交流マッチ」開催へ
「少年の特性に応じた処遇を実施し,社会に開かれた施設運営の推進を図るとともに,再犯・再非行防止対策の推進を目的として」2014年に少年院法が改正された。