2024年11月21日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年4月8日

 そのためには、ワシントンはその防衛体制を整えねばならない。中国の潜水艦の数が初めて米国を上回ろうというのに、強制的歳出削減が国防省予算を脅かしている。ベトナムやフィリピンとのより意味のある協力を進め、これら諸国に日本と協力するよう促さねばならない。インドの台頭を促すことは、いずれ、中国に対するカウンター・バランスとして働くであろう、と論じています。

出典:Richard Fontaine, ‘Chinese Land Reclamation Pushes Boundaries’(Wall Street Journal, March 3, 2015)
http://www.wsj.com/articles/richard-fontaine-chinese-land-reclamation-pushes-boundaries-1425405550

* * *

 中国の南シナ海における振舞いの危険性は散々指摘されていますが、微温的な対応しか出来ていません。そして、中国は、米国等はその程度の対応しか出来まいと読んでおり、中国の行動を抑止する決定的な手段は見つかっていません。

 しかし、この問題を放置することは出来ません。近隣諸国相互間および米国との安全保障上の関係強化は勿論必要かつ有益ですし、日本も一役買うべきですが、最も重要なことは、フォンテインが指摘するように、効果的で強力な米国のプレゼンスです。アジアへの「リバランス」政策の真価を問うのはTPPではなく、米軍のプレゼンスです。ただ、南シナ海をにらんだプレゼンスの拠点は日本やグアムでは遠すぎます。効果的で強力なプレゼンスには、フィリピンが重要になってきます。

 このための最初の布石は既に打たれています。2014年4月、オバマ大統領のマニラ訪問時に、米国とフィリピンは「防衛協力強化協定」に署名し発効しました。この協定は、米軍の恒久的な駐留や基地を認めるものではありませんが、両国が合意する場所への米軍のローテーションによるプレゼンスと軍事物資の事前集積を認めることを中核とする協定です。この協定が機能すれば、この地域の米軍のプレゼンスが強化され南シナ海方面に睨みを利かすことが出来ると思われます。しかし、遺憾なことに、昨年5月、フィリピンの左翼系の元議員やNGOが、この協定は外国軍隊の「駐留」を禁じた憲法に違反している、協定は議会の承認を要する、などとして最高裁判所に提訴しており、協定は未だ機能するに至っていません。この点、1992年には米軍はスービック海軍基地から撤退した後、1995年に中国がフィリピンの抗議を無視してスプラトリー諸島のミスチーフ礁を占領した、苦い歴史的事実が想起されます。

 中国の接近阻止・領域拒否の戦略によって南シナ海が中国の内海と化し、米軍が中国のいう第一列島線(南シナ海もその内側に含まれる)から追い出されることは、悪夢以外の何物でもありません。

▼おすすめの電子書籍

中国軍の実態
習近平の野望と軍拡の脅威

著者:小原凡司/佐々木智弘/弓野正宏/岡崎研究所

▼ご購入はこちら
Kindleストア
iBooks
楽天kobo
Kinoppy(紀伊國屋書店)
BookLive!

 

  
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。


新着記事

»もっと見る