2024年4月23日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年5月20日

 パキスタンに対して、サウジも、インドも、米国も、そして中国でさえも腹を立てているが、パキスタンの国際的立場は見かけよりも強力であり、切り抜けるのも上手い、と4月18-24日号の英エコノミスト誌が報じています。

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 すなわち、パキスタン外交の原則は、(1)インドを挑発するが、やり過ぎない、(2)米国が聞きたいことを言う、(3)中国がして欲しいことをする、(4)アラブ諸国が買いたいと思うものを提供する、ということになろう。

 ところが、今月、パキスタンはサウジからのイエメン派兵要請を断り、サウジを怒らせた。パキスタンのシャリフ首相はサウジに亡命したことがあり、また、サウジは昨年、パキスタンに150億ドルを「無条件」で供与した。一方、パキスタンは、イスラム世界最大の戦闘部隊を擁し、長年、反政府過激派と戦ってきた経験がある。

 しかし、パキスタンにはイエメン関与を避けたい理由がある。まず、パキスタン軍は今も国内で過激派と戦っている。また、パキスタンはイランと国境を接していて、イラン=サウジ代理戦争には巻き込まれたくない。それに、対イラン制裁が解除されれば、大きな恩恵を受ける立場にある。逆に、敵に回せば、イランはパキスタン国内の紛争に介入してくる危険性がある。さらに、パキスタンはスンニ派の国だが、人口の5分の1はシーア派であり、地域大の宗派間闘争でどちらか一方につく事態は何としても避けたい。

 ただ、シャリフ首相は、サウジの領土が脅かされれば、「強く対応する」と表明しており、両国の深い絆は今回の番狂わせにも十分耐えるだろう。それに、パキスタンには、イラン核合意との関連で、サウジがこれまで以上に貴重に思う、核爆弾がある。両国間には、サウジ有事の際はパキスタンが核を提供するという暗黙の了解がある、といわれる。

 一方、中国にとってパキスタンは、(1)中国の潜在的ライバルであるインドと絶えず揉めてくれる、(2)中国海軍が使用できるグワダル港がある、(3)米軍撤退後のアフガン情勢を左右する過激派へのアクセスや情報を持っている、というメリットがある。従って、多少ギクシャクしても、パキスタンと中国の関係は安泰だろう。

 他方、インドはパキスタンが2008年のムンバイ・テロの容疑者を保釈したことに激怒、米国も「重大な懸念」を表明したが、両国がパキスタンに報復する可能性は低い。パキスタンの米国製ハイテク兵器の購入にも影響は出ていない。


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