チャイナ・ウォッチャーの視点

2015年7月13日

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富坂 聰 (とみさか・さとし)

ジャーナリスト

1964年、愛知県生まれ。北京大学中文系に留学したのち、豊富な人脈を活かした中国のインサイドリポートを続ける。著書に『苛立つ中国』(文春文庫)、『中国という大難』(新潮社)、『中国官僚覆面座談会』(小学館)、『ルポ 中国「欲望大国」』(小学館新書)、『中国報道の「裏」を読め!』(講談社)、『平成海防論 国難は海からやってくる』(新潮社)、『中国の地下経済』(文春新書)、『チャイニーズ・パズル―地方から読み解く中国・習近平体制』(ウェッジ)などがある。

 かつて原稿にも書いたことだが、中国における変化はたいてい広東省から始まる。これは産業の構造転換から風俗にいたるまで不思議なほど一致する現象だ。

『中国狂乱の歓楽街』(KADOKAWA/中経出版)

 新中国の歴史を見ても、清王朝を倒した国民党、文化大革命後の市場経済化の流れを決定づけた南巡講話、それに先立つ経済特別「深セン」の誕生と「深セン」がもたらした変化。そして2007年に広東省が宣言した経済の構造転換はその5年後に全国の課題となったことなど挙げればきりがない。

 政治的な変化の多くが北京からの発信によってもたらされたのに対して民間から起こる社会の変化の波は、圧倒的に広東を震源として広がるのだ。

風俗産業の盛衰を体現した東莞

 なかでも象徴的なのが風俗産業の衰亡である。衰亡といえば少々大袈裟に過ぎるが、その発展と衰退の画期がともに広東で確認されたという点に疑いはない。

 盛衰の転換点は、その国・地域の発展段階と密接にかかわっている。かつて〝売春ツアー〟の言葉を生んだ台湾旅行は、いまや若い女性に高い人気を誇る。台湾=売春のイメージが崩れるきっかけは台湾の経済発展と国民党から民進党への政権交代であったというような関連である。

 中国において、この変化を一身に体現した都市を一つ挙げるとするならば、それは間違いなく深センに隣接する都市・東莞市となることだろう。

摘発された東莞の風俗店(ChinaFotoPress via Getty Images)

 その東莞に激震が走ったのは2014年2月9日のことだ。9日午後東莞各所で待機していた警官約6525人が、ターゲットに定めていたKTV(カラオケ・バー)やホテル、サウナ、マッサージ店など12施設を皮切りに全市の風俗店に一斉になだれ込んだのである。この手入れで最終的に当局は「計1948の娯楽施設の捜査を行い、162人を審査のために身柄を拘束した」(広州市政府新聞弁公室の運営するミニブログ)という。

 いわゆる「東莞の36時間」と呼ばれる大捕り物が幕を開けた瞬間だった。この歴史に残る大摘発事件が中国社会の空気を大きく変えてしまう働きをした背景には、いくつかの理由があった。

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