チャイナ・ウォッチャーの視点

2015年9月9日

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小原凡司 (おはら・ぼんじ)

笹川平和財団 上席研究員

1963年生まれ。85年防衛大学校卒業、98年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。IHS Jane’s、東京財団研究員などを経て現職。

 しかし、当の米中関係は、中国の思いどおりに進展している訳ではない。5月20日に、米国が、中国の南シナ海における人工島建設の状況をCNNに報道させたのは、中国が力を以て国際規範を変えようとしていることを、世界に知らしめるためだ。

 米海軍が監視飛行を繰り返しても、米国と水面下で決着できると考えていた中国にとっては衝撃だっただろう。米中間の問題ではなく、中国が国際社会に挑戦するという構図になってしまうからだ。

 米国および周辺各国との対立の構図が鮮明になる中で、中国はその軍事力を誇示することになってしまった。

 不安定化した中国社会を安定させ、共産党に対する求心力を高めるために、軍事パレードは、必要なイベントだった。しかし、中国の平和的な台頭を信じられない各国は、ますます警戒感を高める結果になってしまった。

中国が平和の支持者であると主張できるのは
日中関係の改善くらいしかない

 習近平主席訪米の際に、米国から種々の問題について非難され、対立ばかりがクローズ・アップされることは、中国にとって好ましい状況ではない。中国は、現在の国際社会に対抗する新しい政治・経済ブロックを構築しようとしている訳ではないのだ。

 そうした状況の下で、中国が、平和の支持者であると主張できるのは、日中関係の改善くらいしかない。中国では、8月14日に発表された「安倍談話」は極めて不評である。それでも、非難を抑制したのは、日中関係の改善を期待したからだ。

 中国の報道を見れば、9月3日の安倍首相の訪中に期待していたのは明らかである。安倍首相と習主席の首脳会談が実現していれば、習主席が訪米した際にも、東アジアの安定に寄与していると主張することが出来ただろう。

 しかし、安倍首相の訪中は中止された。中国は、減速する経済を再浮揚させるためにも日本との関係改善が不可欠であるが、外交面でも大きなダメージである。日本政府には、安保法案の国会審議等、安倍首相が日本を離れられない理由がある。しかし、日中関係は、日中二国間だけの問題ではない。

 中国と韓国は、軍事パレードに先立って行われた中韓首脳会談において、日中韓首脳会談の開催を決定した。韓国側から提案したと言われるが、中国は、自らが北東アジアの平和のために努力していると主張するだろう。

 また、日中関係には、米国も関わってくる。さらに、もう一国、注目しなければならない国がある。米中二極に対抗して、第三極として生き残るゲームを、アジアで展開しようとするロシアだ。

 現在の日本と中国は、ロシアにとって扱いやすい。日中間がほぼ断絶状態だからだ。イランの核開発問題で存在感を見せたロシアに対して、米国は態度を軟化させたと言われる。こうした状況が、ロシアにとって日本の利用価値を下げた。

 北方四島返還の議論のテーブルにロシアを着かせるためには、ロシアに、日本が必要だと認識させなければならない。日中が種々の問題について直接協議できるようになれば、中ロ関係にも影響を及ぼし、日本のロシアに対するオプションが増えるかも知れない。

 日本は、中国との関係を考える際にも、米国やロシアといった他の大国の意図を見ながら難しいかじ取りを迫られる。中国だけに目を奪われれば、さらに大きな盤でゲームを試みる他の大国に、駒扱いされることになりかねない。

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