2024年4月27日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年11月13日

核兵器配備の可能性も

 過去1年のエスカレーションを見れば、プーチンがカリーニングラードやクリミアに核兵器を配備し、或いは、バルト諸国に対して軍事行動に出るかも知れない。習近平がマレーシア(注:インドネシアの間違いか?)をそそのかし、マラッカ海峡近くのナトゥナ諸島に軍事基地を置くことすらあるのではないか。これらの可能性は、クリミアの併合や米国政府に対する図々しいサイバー攻撃に照らせば、奇想天外のことではない。

 オバマ政権は、この種のエスカレーションを阻止するために行動すべきである。それには、東欧における米軍のプレゼンス、緊急時のバルト諸国支援のための武器の事前集積がある。北京には航行と飛行の自由の妨害は認められないことを警告すること、また地域的な海上パトロール隊を結成することがあり得よう。

 米国に敵対する国は米国の尻込みと優柔不断につけ込む。米国が挑戦に立ち向かう、と説得されるまでは止まることをしない、と述べています。

出典:Michael Auslin,‘This Is What Escalation Looks Like’(Wall Street Journal, October 7, 2015)
http://www.wsj.com/articles/this-is-what-escalation-looks-like-1444257167
 

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米国は毅然とした対応を

 ここでのオースリンの議論は単純なことで、侵略的意図を有する国の行動はどこかで決然とした態度で拒否しなければエスカレーションは続く、特に、挑戦からの米国の逃避がこの危険を増大し、後により大きな代償を払うことになる、ということです。この議論は目新しいものではありませんが、真実を含むものです。しかし、問題はエスカレーションを遮断するためにどういう現実的な戦略があり得るか、ということです。

 我が国にとっては、南シナ海の方がシリアよりも遥かに重大な問題です。人工島が要塞化されても、勝手な防空識別圏が設定されても、米海軍・空軍がこれまで通り自由に活動出来ると米国が考えているならいざ知らず、そうでないならば十分な手段を講じる必要があります。10月26日に米海軍の艦船が南シナ海の人工島の12海里内に立ち入ったのは、まだ十分とは言えないでしょうが、まずは歓迎すべきことです。オースリンが言及している措置は生ぬるいですが、やらないよりは良いでしょう。パトロール隊を組織するという案は検討に値しますが、日本も参加を求められるかも知れません。その時、積極的平和主義の真価が問われることになります。

 シリアについては、穏健な反体制派あるいはクルドに対する支援を強化するくらいしか策はないのではないかと思います。10月1日、TVのインタビューで、大統領候補クリントンは穏健な反体制派や一般市民の保護のための「飛行禁止区域」や「人道回廊」をシリアに設定することを提唱しましたが、ロシアが空爆を行い、地対空ミサイルを持ち込んでいる状況でロシアが協力する筈はなく、ロシアの協力なくして「飛行禁止区域」は可能ではありません。ロシアは、米国は決定的な動きには出ないと読んでいるでしょう。米国にとっては手詰まりの状況であり、シリアでは更に泥沼化が進むでしょう。新しい大統領が就任する頃には、情勢は大きく変わっていると思われます。
  
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