2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2015年12月1日

「航行の自由作戦」に替わり得るものはない

 上記2つの社説が言っていることに違いはありません。やっとオバマ大統領は決断したかということであり、遅きに失したとはいえ、この決断を支持しています。

 中国を不必要に刺激しないためでしょうか、カーター国防長官の口は重いようです。ホワイトハウスも何も言いたがりません。米国は今回の作戦の全貌を説明していません。通航したのはスビ礁だけなのか、ミスチーフ礁も含むのかも明らかではありません。また、米国は今回の作戦の国際法との関係における性格も説明していません。国務省は、「公海(international waters)を通航することは挑発的ではない」と言っているのみです。米国の認識として「ラッセン」は無害通航の態様で通航したのか、それとも無害通航でない態様で通航したのかも明らかではありません。

 一方、中国外務省は「ラッセンは中国政府の許可を得ることなく違法に南沙諸島の当該島(複数)および礁(複数)の周辺の海域に侵入した」「中国当局はラッセンを監視し、追尾し、警告した」「ラッセンは中国の主権と安全保障上の利益を脅かした」と述べています。この発言振りによれば、中国の認識としては、ラッセンの行動は無害通航ではもとよりあり得ず、そもそも中国は軍艦に対する無害通航権を認めているのかも疑わしい状況です。そういう観点からは、ラッセンの行動は中国の立場を否定する効果を持ったということかも知れません。

 2つの社説は「航行の自由作戦」の継続を求めています。適切な判断だと思います。カーター国防長官は今後数週間、数ヶ月継続する方針を表明しています。ウォール・ストリート・ジャーナル紙がいう関係国による合同パトロールは可能ならそれを排除する必要はありませんが、米国単独の「航行の自由作戦」に替わり得るものにはなりようがないでしょう。米中間の緊張の高まりを心配する声もありますが、米国としては下手な妥協はすべきではありません。

 人工島の軍事施設建設を抑制させることは恐らく出来ません。関係国間の領有権争いを解決に導くことは、この際二義的なことです。中国の長期的な狙いが西太平洋から米軍を追い出すことにあることは疑いありません。従って、最も重要なことは、中国の脅迫に拘わらず、米軍がこの地域で自由な活動を継続出来るよう、その意思を明白に表現し続けることです。それには負担が伴うだけに、日本が適時、適切に支持を表明することが重要だと思います。
  
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