宗派対立が周辺国にも拡大
判断誤ったサルマン強硬体制


佐々木伸 (ささき・しん)  星槎大学客員教授

共同通信社客員論説委員。ベイルートやカイロ支局長を経て外信部副部長、ニュースセンター長、編集局長などを歴任。

WEDGE REPORT

時間軸の長い視点で深く掘り下げて、世界の本質に迫る「WEDGE REPORT」。「現象の羅列」や「安易なランキング」ではなく、個別現象の根底にある流れとは何か、問題の根本はどこにあるのかを読み解きます。

»最新記事一覧へ

シーア派の宗教指導者の処刑をめぐって起きたサウジアラビアとイランの対立は、サウジに続き、隣国バーレーンとスーダンがイランとの断交を決定。アラブ首長国連邦(UAE)が駐イラン大使の召還を発表するなど周辺諸国に拡大した。今回の宗派対立激化の背景には「イランの強迫観念に取り憑かれたサウジのサルマン体制の判断ミスがある」(ベイルート筋)ようだ。

潜在的な対立が噴出

3日、シーア派の多いバーレーンの首都マナーマでも抗議デモが起きた(Getty Images)

 水面下で繰り広げられてきたペルシャ湾岸の2大国、サウジとイランの覇権争いが一気に噴出した感がある。サウジは断交後、イランへの渡航禁止やイランとの商業関係の断絶も発表した。両国は1988年にも、メッカ巡礼で、イラン人巡礼者とサウジの治安部隊が衝突し、イラン人275人が死亡した事件をきっかけに2年間断交した過去がある。

 両国はその後、潜在的な対立はありながらも表面上は平穏を装ってきた。しかし2011年の「アラブの春」で、抑圧されてきたサウジやバーレーンなど湾岸諸国のシーア派は支配層であるスンニ派王家への不満を爆発させ、反政府運動を活発化させた。

 特に小国バーレーンは支配層であるスンニ派は少数派で、多数派のシーア派による反政府抗議行動が頻発。サウジが戦車部隊をバーレーンに送り込んで反政府行動を鎮圧した経緯がある。サウジやバーレーン王家では、こうしたシーア派の反政府行動の背後でイランが糸を引いているとして警戒心が高まった。

 サウジなど湾岸諸国はこれ以上イランの影響力が地域に拡大するのを阻止するため、シリアの内戦でイランが支えるアサド政権に敵対する反体制派を支援。サウジはさらに隣国イエメンで起きた内戦でも、イランがクーデターを起こしたシーア派のフーシ派を扇動しているとして、イエメンに軍事介入した。

 昨年9月のメッカ巡礼の圧死事故では、イラン人450人を含む2411人が死亡、イラン側がイラン人元外交官を誘拐するためにサウジが事故を利用していると非難するなど両国の対立と敵対心が深刻化していた。こうした潜在的な不満が臨界点にまで近づいていた時に、サウジによるシーア派指導者ニムル師の処刑が実施された。

次のページ >> 王家の内紛も関係か
1
nextpage
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
「WEDGE REPORT」

著者

佐々木伸(ささき・しん)

星槎大学客員教授

共同通信社客員論説委員。ベイルートやカイロ支局長を経て外信部副部長、ニュースセンター長、編集局長などを歴任。

WEDGE Infinity S
ウェッジからのご案内

Wedge、ひととき、書籍のご案内はこちらからどうぞ。

  • WEDGE
  • ひととき
  • ウェッジの書籍