2024年12月3日(火)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年1月25日

 12月初めに中国有数のコングロマリット、復星集団の郭広昌会長が数日間失踪、司法当局に尋問されていたと言われていますが、拘束の理由は明らかにされていません。エコノミスト誌12月19日号は、こうした事態が習主席の外遊にも同行した著名な実業家に起きたことは、習政権の取り締まりが今や民間企業にも及び始めたことを示すものだ、と報じています。

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共産党はその気になれば誰でも恣意的に扱える

 12月10日付けの地元新聞によれば、郭氏は上海で飛行機から降りたところを公安に連行された。復星は、会長は当局の捜査に協力しただけだと主張したものの、同社の株式取引を一時停止させ、このことが世界中で波紋を呼んだ。復星は欧米でいくつもの有名企業や建物に巨額の投資をしているからだ。

 腐敗捜査の対象となったということになれば、復星は壊滅的な打撃を受ける可能性がある。同社は、経営体質は健全だが、海外で保険会社、銀行、種々のブランド企業を派手に買収して来ており、11月末にスタンダード&プアーズは同社をリスク企業と格付けしている。

 あるいは郭氏は腐敗役人について証言しただけで、彼自身は潔白なのかもしれない。しかし、当局が財界の雄をかくも高圧的に取り扱ったことは、中国の法体制の不備を想起させるだけでなく、党はその気になれば誰でも恣意的に扱えることを示すもので、憂慮される。

 企業人に対してこうした仕打ちが出来るのは、中国では毛沢東によって資本主義と法の支配が破壊され、ほとんどの民間企業は多くの資産に明確な財産権の裏付けがなく、税額も交渉で決められた等、法的に曖昧な状況から出発しているからだ、と専門家は指摘する。本人は腐敗していなくても、当局はいくらでも過去の曖昧さを言い立てて彼を詐欺師に仕立て得るというのだ。

 そうなった場合、受ける痛手は国営企業よりも民間企業の方が大きい。国営企業のguanxi(関係の網)はトップが失脚しても続くが、民間企業のguanxiは創業者が逮捕されればそれで終りかもしれない。既に今回のことで復星集団が企てていたイスラエルの保険会社や英独の銀行の買収は危うくなっている。

 一方、中国財界の重鎮たちは今や北京に忠誠を示すのに懸命だ。習は、世界インターネット会議を主催し、自由な言論を抑圧する中国式「インターネット主権」を促進しようとしている。ロシア、パキスタン、カザフスタン等の、ならず者国家の指導者たちと並んで、国内大手のインターネットやテクノロジー企業の創業者たちが同会議への出席を確約した。

 民間部門が圧力を受けていることを最も鮮明に示すのはアリババの馬雲会長だろう。これまで政治論争を避けてきた馬だが、11日、香港の英字紙、South China Morning Postの買収を発表した。同紙の香港の政治デモについての果敢な報道は、国内でその種の報道を阻んでいる習政権を大いに狼狽させてきた。

 馬は香港の言論の自由を守るだろうか。「我々を信頼して欲しい」、と馬は言うが、同紙の買収が確定した11日、アリババは北京政府への支持を表明。また、同社の蔡副会長は、西側メディアは中国を共産主義国家という色眼鏡で見るが、ポスト紙は物事をありのままに報道する、と断言した。しかし、中国は、事実、共産主義国家であり、今回の件が示すように、このことが物事全ての根幹にある、と報じています。

出典:‘Another turn of the screw’(Economist, December 19 2015-January 1 2016)
http://www.economist.com/news/business/21684147-detention-fosuns-boss-shows-even-chinas-biggest-tycoons-are-no-longer-safe

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