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2016年1月26日

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中西 享 (なかにし・とおる)

経済ジャーナリスト

1948年岡山県生まれ。72年共同通信社に入社。88年から91年までニューヨーク特派員、経済分野を取材し、編集委員を経て2010年に退社。現在は経済ジャーナリスト。著書は「ジャパンマネーの奔流―ニューヨーク・東京・ロンドンの24時間」(1987年、ダイヤモンド社)、「日本買い 外資は何を狙っているか」(2005年、PHP研究所)など。

 原油収入で得たサウジの金融資産の運用はサウジアラビア通貨庁(SAMA)が一手に担ってきた。90年代まではSAMAが有り余る石油収入を金融資産に変えて対外資産を蓄えてきた。このため世界の市場ではSAMAは買う側のメジャープレーヤーで、機関投資家などはSAMAが何を買うかその動向を注目していた。ところが、14年の後半から石油収入の減少により、売る側に回らざるを得なくなった。

 昨年の7月段階でSAMAの対外金融資産は6000億ドル以上あるとみられているが、財政事情がさらに厳しくなれば、IMFが予測したように、主要市場でSAMAが保有していた株式や債券など虎の子の金融資産も処分せざるを得なくなる。となると、「サウジ発の金融不安」が現実のものとなる恐れがあり、マーケットのさらなる攪乱要因になる。すでにその兆しは黄色信号で点滅している。

 主要通貨の中で比較的安全とされる円が買われ、20日のロンドン市場では1年ぶりの円高水準となる1ドル=115円台まで急騰した。これ以上の円高が続くと、日本経済は急激な円高がマイナスに作用して景気回復の基調に狂いが生じる。黒田東彦日銀総裁が唱えてきた「異次元の金融緩和による景気回復」のシナリオも一気に崩れることになりかねない。日銀は今月の28、29日に金融政策決定会合を開く予定にしており、マーケットでは追加の金融緩和に踏み切るのではという見方も出ている。

インフラ輸出にも狂い生じる

 日経平均株価は年初から3000円も急落、21日は1万6017円まで下げた。22日には原油価格が反発したことなどもあって118円の円安となり、株価は買い戻されて1000円近く急反発した。週末22日のニューヨーク市場で原油価格は30ドル台を回復はしたが、先行きの見通しは立っておらず、油断はできない。産油国の財政収支が悪化してくると、日本政府が期待しているこれらの諸国への道路、港湾、発電所、地下鉄などのインフラ輸出にも狂い生じることになる。

 市場筋では、115円まで円高が進んで株価の1万6000円を割り込む水準になれば、回復基調にある日本経済が落ち込むのを食い止めるために追加金融緩和もあるのではないかとみている。しかしさらなる金融緩和、いわゆる「黒田バズーカ」の発動も、世界のマーケットが不安定になっている現状では以前ほどでのサプライズ効果は難しい。「黒田バズーカ」が期待したほどの効果が出ないとなると、これまで国際的には評価されてきたアベノミクスも色あせてしまう。

 安倍首相は5月26、27日に伊勢志摩サミット(先進国首脳会議)の議長役を務めることになっている。首相としてはサミットの席上でアベノミクスの成果を誇示し、日本が世界に対してリーダー-シップを発揮できることを示したいところだ。だが、年明けからの世界各地で起きているテロの頻発、マーケットの混乱からすると、アベノミクスの評価どころではなく、サミット参加国首脳の関心事は、世界的なISによるテロ不安、市場混乱をいかに沈静化させるかが最大の議題になる可能性が大きくなっている。

 テロ対策、マーケット対策が主要議題となると、キープレーヤーは直接の当事者である欧米諸国になりがちだ。安倍首相がこれほど緊急かつ重大な世界的イシューをまとめて、先進国間で何らかの合意点を見いだすのは容易ではない。8年に一度、先進国の回り持ちで開催されるサミットだが、今回は議長国の日本に託されたものは、これまでにないほどの重さだ。議長国としてのハンドリングを間違えると即、サミット後の参院選挙、さらには政局へとつながりかねない。 

  
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