新年早々から世界のマーケットの大波乱が続いている。株価も急落が続き、為替相場も円が急騰するなど、経済活動を揺さぶっている。その大きな震源になっているのが昨年から下げが続いている原油価格だ。原油価格が下がれば産油国の収入が減り、オイルマネーが引き上げの警戒感があったが、中でも注目されているのが世界最大の原油輸出国のサウジアラビアの財政赤字の急増だ。
サウジのGDP(国内総生産)の半分、歳入の80%が石油関連産業に依存しており、原油価格の下落は即座に収入の大幅な減収に直結する。昨年は財政赤字を補うため、600億ドル(約7兆円)もの金融資産を取り崩したとされるが、それでも足りなかったようで、昨年7月には40億ドルの国債を発行した。サウジが国債を出すのは07年以来のことで、財政の台所の苦しさを物語っている。
5年以内にサウジの準備資産は枯渇する
昨年12月28日に発表されたサウジの2016年予算では、財政赤字が3262億リアル(約10兆5000億円)と大幅に増加した。しかも原油価格は世界的な経済の低迷傾向から下落に歯止めがかからない状況が続いており、1バレル当たり30ドルを割り込む水準が続くようだと、財政事情はさらに厳しくなる。世界の原油市場は依然として過剰な状態になっており、今後、イランからの原油が輸出市場に流れてくれば、弱含みの材料が増えることになる。
さらに米国が原油輸出を再開するとしており、これも原油価格を一層弱める材料になる。こうした原油を取り巻く環境を受けて、IMF(世界通貨基金)は昨年10月の報告書で、原油価格の低迷が続きサウジが現在の政策を継続すると、「5年以内にサウジの準備資産は枯渇する」とする警告を発している。
中東諸国でもクウェート、カタール、UAE(アラブ首長国連邦)などは「20年は持つ」と予測されているが、最も深刻なのがサウジだ。まさに「逆オイルリスク」が表面化し、これまで買い手だった産油国のオイルマネーが総引き揚げ状態となり、世界経済を不安の連鎖に引き込んでいる。
サウジはこれまでは中東湾岸諸国の盟主として湾岸諸国のリーダー的役割を担って来た。14年の夏までは原油価格が1バレル=100ドルを超えていたころまでは財政に余裕があったが、15年に入って価格が急落して状況が一変した。2000年以降は原油収入が豊かだったことから、国内の社会保障、教育、医療の多くを無料にするなど財政の大盤振る舞いを続けてきた。さらにこの10年間は中東地域での緊張状態から防衛費が大幅に増加、直近ではイエメンの武装組織に対して軍事介入するなどしたため、軍事費負担も増加していた。
年明け早々に、サウジがイスラム教シーア派指導者を処刑したことをきっかけに、イランがサウジの大使館を襲撃する事件が起きた。これら一連の動きを受けて、スンニー派盟主のサウジとシーア派の大国イランが外交断絶するまでに関係が悪化、中東リスクを一段と高める結果になっている。このためサウジとしてはイランなど周辺国への対抗上、軍事費を削減できない事情がある。
また財政難から無料で提供してきた医療サービスなどを急にストップするとなると、サウジを統治している王族への反発が強まることにもなりかねない。こうした国内事情から膨れ上がった歳出を急には削減できない。サウジは石油産業だけでは石油という国の富を食いつぶすだけだとして、90年代以降、石油以外の産業を育成しようとしてきたが、潤沢な原油収入があることから、石油依存の産業構造を変えることができなかった。石油収入にあぐらをかいていた結果、原油価格の急落で、今回の事態を招いてしまった。