2024年4月19日(金)

Wedge REPORT

2016年1月6日

 2015年も原油価格は低迷を続けた。WTIの原油価格は2014年6月20日の107.26ドルから68.3%安となる33.98ドルを15年12月18日に記録した。これはリーマン・ショック後の09年2月12日につけた過去10年の最安値と同じ価格だ(過去15年の終値ベースの最安値は03年4月29日の25.24ドル、過去20年の終値ベースの最安値は98年12月10日の10.72ドル)。

 ここまで原油安が進んだ背景には、様々な要因がある。北米でのシェールオイル生産ブーム【供給増】、OPECによる減産の見送り【供給増】、イランの経済制裁解除によるイラン産原油の市場への供給【供給増】、原油需要の減少、ドル高、といったことが主な要因だ。中でも特にサウジアラビアを中心としたOPECの姿勢が大きく影響している。これまでOPECは、原油価格が下落する過程では減産をすることで供給を減らし、需給バランスを変えることで原油価格を引き上げる動きをしてきた。ところが、今回の原油価格下落局面では、OPECは減産を見送り続けてきた。その狙いは、原油生産シェアの維持回復だ。

止まらない過剰供給

 サウジアラビアをはじめとするOPEC諸国は、これまで世界の原油生産量に対し高いシェアを維持してきたが、北米のシェールオイル等の開発により、シェアが低下し始めた。シェア回復のために価格競争にもちこんだというわけだ。もともと中東諸国での原油生産は、地表に近い位置から原始的な方法でも産出できる油田も多いため、生産コストが安い。対する北米のシェールオイルはコストが高い。原油価格が高くなったことで北米のシェールオイル開発が採算に合うようになり、シェールオイル開発ブームが起きたのだ。OPECにしてみれば、本来自分たちの利益になるはずの原油価格上昇が、高コストのシェールオイル開発を可能にし、結果として自分たちのシェアを落とすことになってしまったのだ。

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 そこで、供給過剰状態にあるにも関わらず、OPECは減産をせずに供給過剰状態を継続して原油価格を下落させ、北米のシェール事業が採算割れをするようにした。IMFのレポートによると、中東の陸地での原油生産コストは平均で1バレル当り29ドルが採算ライン。対して、北米のシェールオイルの採算ラインは62ドル、カナダのオイルサンドは74ドルだ。原油価格が1バレル100ドルであれば十分に採算に合う北米のシェール事業も、原油価格が50ドルまで下落してしまえば採算割れをする事業者も出てくるはず、というわけだ。結果として採算割れをした事業者たちが廃業すれば自分たちOPECのシェアが高まる。

【出所:IMF】
Seven Questions About The Recent Oil Price Slump
December 22, 2014
https://imfdirect.files.wordpress.com/2014/12/oil-4.jpg

 ところが、北米のシェールオイル事業者たちも下落した原油価格に合わせてコスト削減の努力をしてきた。更に、原油生産事業は初期コストが極めて大きく、ランニングコストはそれに比べて非常に小さく、全体としての採算ラインが62ドルという構造だ。つまり、北米のシェールオイル事業者としては、ランニングコストだけで考えれば50ドル以下の原油価格であっても、操業コストを賄うことは可能であるため生産を続ける。するとOPECはさらに原油価格を下げようと減産を見送り……という消耗戦になる。結果としては、他の要因も合わさり原油価格は34ドルになった。

 こうした原油安は何を招くのか。端的に言えば原油を売る国と原油を買う国で対照的なことが起こる。ここではもう少し分けて考えてみたい。


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