2024年4月19日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年3月7日

中小国防衛のための米国の支援とは

 米国は最前線の小国を以下のように支援することができる。

 1)中・東欧のいくつかの国はA2/AD能力の構築を考えており、米国はATGMなどの拒否の戦略手段を提供する。

 2)米国は相手のコストを増大させる戦略を、新兵器を展開するなど独自に実施するか、技術や情報を同盟国や友邦国と共有することにより進める。

 3)米国は、同盟国や友好国と情報を共有することなどにより、相手の強要の試みを世に広く知らしめる。

 4)潜在的侵略者の政策決定をよく知ることにより、平和時に潜在的侵略者にゆさぶりをかける。

出 典:Thomas Mahnken‘Small States Have Options Too: Competitive Strategies Against Aggressors’(War on the Rocks, January 27, 2016)
http://warontherocks.com/2016/01/small-states-have-options-too-competitive-strategies-against-aggressors/

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中小国戦略には米国の支援が不可欠か

 上記論説は、大国の侵略を防ぐ中小国の戦略と言っていますが、アカデミック・エクササイズとしては有用であっても、現実の世界では中小国だけでできることは限られています。拒否戦略一つをとっても、有効といわれるATGMは米国が提供することになります。また、対決の継続または紛争のコストを耐えがたいほど高くすることも、中小国だけではできません。バルト3国や中・東欧諸国がロシアの強要に対抗するためには、NATOの傘、特に米国との協力が不可欠です。論説も、中小国の戦略と言いながら、米国の支援の重要性を指摘しています。

 同じ強要と言っても、ロシアと中国ではその態様が異なります。中国は、いずれ南シナ海を中国の内海とし、東南アジア諸国を中国の勢力圏に組み入れようと考えているとみられますが、相手、国際社会、特に米国の出方を見極めながら、サラミ戦術的に進みます。フィリピンやベトナムを侵略することは考えていませんが、南シナ海での領有権争いでは、強要もします。

 したがって、同じく野心を持った大国とはいえ、ロシアに対する戦略と中国に対する戦略は異ならざるを得ません。論説の戦略は主としてロシアを念頭に置いたものと言えます。

 4つの戦略のうち、敵の戦略に対する攻撃と敵の政治システムに対する攻撃は、ロシア、中国とも国内の情報を徹底的に管理しているので、なかなか効果は上げられないでしょう。しかし、ロシアも中国も、実はこのような戦略を最も恐れていると思われます。情報を管理しているだけに、その管理体制に少しでも隙間ができた場合の影響は大きいです。そして、この2つの戦略も中小国だけで実施できる問題ではなく、西側が一体となって推進すべきものです。

  
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