「そもそも俺には日記を書く習慣がない。小さな自己の毎日を書き残すことに意味を感じないからだ。だが、相手が植物となると違う。猛烈な欲望がわいてきて、なるべく正確に彼らの様子を写し取っておきたくなる」
植物男子とは
BSプレミアムの「植物男子ベランダ―」の原作である、「自己流園芸ベランダ派」のなかで、作者のいとうせいこうは、そう述べている。ベランダ―とは、ガーデニングをするガーデナーに対して、都会のマンションのベランダで植物を栽培する、作者の造語である。「植物男子~」は2013年に放映が始まって、4月からついにシーズン3(第1、2木曜午後11時15分~44分)に突入した。
田口トモロヲ演じるベランダ―が、毎回ひとつの植物をめぐってその成長ぐあいを取り上げる。植物を眺めているようで、それは人生の本質をさりげなく綴っている。
第4話「クレソンと弟子」(5月12日)は、ベランダ―のもとに弟子入りを志願する、20歳の若者の柊研一(村上虹郎)が現れる。居候となった、柊にベランダ―は植物に水のやり方から教える。
「ほらほら、あんまりていねいに水をやっちゃだめだよ。こういう風に適当に」と。
言葉通りに適当に水を振り撒くベランダ―に、柊は唖然とする。
ベランダ―の今回の興味の焦点は、植物の根である。「そもそも根っことは何か? 地上の生命が終わった後も、地下ではひげもじゃなのである」。
弟子とともに、花屋に寄って、ひげの観察に適した植物を物色するが果たせずに、ベランダ―はクレソンの水耕栽培を思いつく。クレソンを手に入れる方法が、意表を突く。
レストランでステーキを食べながら、付け合わせのクレソンを紙ナフキンに包んでシャツのポケットに隠すのである。
ドラマは、田口トモロヲの語りで進行して、疑問を持つとカメラの方に向いて観る者に同意を求めているようにみえるのもおかしい。
ついに、クレソンの根はペットボトルを使った容器のなかで大きくなって、別の容器が必要になる。
ここで、「KING of Vegetable、クレソン」という曲目のラップと、学生服の男子学生や女子学生に扮した人々による乱舞である。「栄養満点クレソン!」「残さず食べる Baby!」……。クレソンが含む栄養素なども歌われる。
植物を真剣に淡々とみつめるベランダ―と、ラップのギャップもまた、このドラマの魅力である。