WEDGE REPORT

2016年7月23日

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横江公美 (よこえ・くみ)

政治アナリスト

明治大学卒、博士(政策)。ヘリテージ財団上級研究員等を経て、東洋大学客員研究員。近著は「崩壊するアメリカ」(ビジネス社)。
 

 オバマは外交・安保でも、イランとキューバとの対話を再開し冷戦構造を終了させた。さらに現職の大統領として初めて広島を訪れた。米国的「戦後レジーム」に区切りをつける最後の砦が広島訪問だったのである。

 経済、社会政策、そして外交・安保、つまり連邦政府の仕事全てで、オバマはプラットフォームを変えてしまった。変化が大きいだけに不満の声が大きいのは当然だ。オバマは支持率の低下を恐れずに信念を押し切った。だからこそ「強い」大統領なのだ。

トランプもヒラリーも「オバマ後」にいる

 誰も予想しなかったトランプの予備選勝利、そして今後の本選挙の行く末は、米国に起きている3つの大きな変化をおさえると納得するだろう。この変化は不可逆的なものであり、トランプであってもヒラリー・クリントンであっても「オバマ後」の政治的文脈から離れることはできない。

PATRICK T. FALLON/BLOOMBERG/GETTYIMAGES

 3つの変化とは、人口動態とテクノロジーと国土安全保障である。

 1つ目の人口動態の変化とは、移民が増え、ヒスパニックや黒人が選挙の帰趨を決める一定の割合を占めるまでに定着したことだ。2000年には白人は約70%だったが、10年になると60%を少々超えるほどで、最近では60%を切っていると予測できる。マイノリティの合計が白人の割合を追い越す時代のカウントダウンが始まっている。オバマケアも同性婚を認める動きもマイノリティの立場にたった対策である。ヒラリーが女性の代表であると訴え、トランプが共和党でありながら経済格差の是正を訴える背景は、まさにマイノリティ社会への移行なのだ。

 2つ目のテクノロジーの進化とは、インターネットへの常時接続環境が整ったことだ。この変化はテレビの浸透以来の大きな変化である。誰もがスマホで演説を見て、ソーシャル・メディアで候補者について語り合うことができる。サンダースがいまだに大統領戦から離脱しなくて済んでいるのは、ネットによる個人献金に支えられているからである。トランプは、「リアリティ・ショー」さながらにテレビとネットを操っている。ツイッターでのつぶやきですら、ニュースになっている。

 変化を理解し、その中枢にいるソーシャル・メディアを使いこなすミレニアル世代(1980~2000年生まれ)を引きつけて初めて誕生した大統領がオバマだ。ヒラリーもトランプもその流れを踏襲しなければ大統領になることはできない。

 ヒラリーが伸び悩んでいるのは、変化を理解していない古い世代に見られているからだ。メール問題は、国家的機密がGメールから漏れたのではない。フリーメールだと、将来情報公開されるべきメールが、開示される前に事業者によって削除されてしまう可能性があることが問題になったのである。しかもヒラリーは、政治献金を受け取っているために、トランプとサンダースが唱えるウォール街への課税強化を主張できていない。

 そして、3つ目の変化は、安全保障環境の変化である。11年9月11日の同時多発テロ以降、米国は本土の安全保障を考えなければならない国になった。オバマは、米国は世界の警察官ではないことを何度も繰り返し、本土の安全保障を重視することをはっきりと宣言している。混乱するイラクとアフガニスタン、そして不気味に拡大するISIS。米国は厭戦感に包まれ、テロの恐怖に怯えている。誰が大統領になっても、国土安全保障へと軸足がうつることは変わらない。

 トランプが、メキシコ国境に万里の長城をとか、ISISに対して強硬な発言を続けているのは、一見、人種差別的、極右的に見えるが、国土安全保障を重視するレトリックだと捉えると、人気の秘密がわかるだろう。

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