近著「崩壊するアメリカ─トランプ大統領で世界は発狂する!?」(ビジネス社)を書くにあたって、多くの日本の出版社と話をしたが、ずっと噛み合わないものを感じていた。あるベテラン編集者と、何時間も話して、その原因がやっとわかった。「日本では、オバマが〝弱い〟大統領だと思われている」。それは、米国の政治の奥の院とも言われるシンクタンクで上級研究員としてオバマを見てきた私にとって大いなる驚きであった。
何しろ、オバマは、特に建国以来一度も皆保険制度を持ったことのない国に、「オバマケア」を導入してしまった。これは、人気のあったビル・クリントンですら、政権初期に諦めている。大統領が「God Bless America(米国に神のご加護を)」という言葉で演説を締めるキリスト教色の強い米国で、同性婚を認めたことは神学論争の転換である。業績で見ると、他の大統領の追随を許さない。
日本では、政権基盤を支持率で判断することが多いが、オバマの支持率は政権発足当時に比べると格段に低い。しかも、日本では関係の深い国際政治についての報道が大半なので、南シナ海の島々の基地化を中国に許してしまったことや、クリミア半島を併合してしまったロシアに対しての無策ぶり、そしてISIS(イスラム国)の残酷なテロを見るにつけ、オバマは弱いと言いたくなる気持ちもわかる。
また、日本と密接なTPP(環太平洋経済連携協定)交渉で、第1次オバマ政権に対し、妥結のために必要なファストトラック権限を米議会がなかなか認めなかったことが繰り返し報道されたことも弱い印象を与えたのだろう。しかしそれは、議会で多数を占める共和党が、オバマの大統領再選を阻むための戦術であった。従来、共和党は自由貿易協定には賛成だ。
共和党はオバマが再選するとオバマケアは撤廃できなくなり、さらに手が付けられなくなると踏んでいたのである。2012年の再選が決まった時の共和党の重鎮たちの落胆ぶりはかなりのものであった。
米国政治には40年毎に支配政党が変化するという世代論がある。過去の40年間(ニクソンからオバマ直前まで)を見ると、圧倒的に共和党が強く大統領選挙は7勝3敗、民主党の大統領は、その後党大会に呼ばれないほど評価されていないカーターと、史上もっとも共和党に近いと言われたビル・クリントンしかいない。だからこそ、共和党の重鎮たちはオバマ大統領の登場で潮目が変わったことを理解していたのである。