2024年12月22日(日)

海野素央のアイ・ラブ・USA

2016年6月22日

 今回のテーマは「トランプとクリントンのルート270」です。共和・民主両党の予備選挙は終了したばかりですが、全国党大会を前にすでに本選モードになっています。予備選挙を勝ち抜いた共和党の不動産王ドナルド・トランプ候補と民主党のヒラリー・クリントン候補は、早速激戦州を訪問し、フロリダ州オーランドで発生した銃乱射事件と銃規制、移民政策及びLGBT(同性愛者)を結びつけて激しい論戦を繰り広げています。

 予備選挙では、各候補は代議員数を争いましたが、本選に入ると選挙人の獲得に焦点が移ります。各州の選挙人の総数は538で、過半数270を獲得した候補が勝利を収めます。そこで本稿では、本選でトランプ候補とクリントン候補がどのようにして選挙人の過半数270を獲得できるかについて考えてみます。

本選と選挙人の仕組み

 選挙人は、人口に応じて各州に割り当てられています。選挙人の数は、各州の連邦上院議員と連邦下院議員の合計になっています。連邦上院議員数は、州の人口に関係なく各州に2名、合計100名います。筆者が、08年及び12年に研究の一環としてオバマ選対に入り、戸別訪問を行っていた南部バージニア州を例にとってみましょう。同州には連邦上院議員が2名、連邦下院議員が11名おり合計した13が選挙人の数になります。選挙人が最も多い州は、西海岸カリフォルニア州の55、次いでテキサス州の38、ニューヨーク州とフロリダ州の29の順になっています。ほとんどの州が、相手よりも1票でも多くの票を得た候補がその州のすべての選挙人を獲得できるという「勝者総取り」を採用しています。

 一般有権者による投票は、11月の第1月曜日の次の火曜日になっています。日曜日は安息日で礼拝に行き、農民は翌日の月曜日に四輪馬車などで投票所まで移動し、火曜日に票を投じたのが由来です。2016年の場合、11月8日(現地時間)が投票日で、選挙人を選出し、それが事実上の正・副大統領の当選者の決定となります。その後、各州の選挙人による投票が、12月の第2水曜日の次の月曜日に行われます。今回の選挙では、同月19日になります。17年1月の連邦上下合同本会議で開票を行ない、正式に正・副大統領が決定します。大統領就任式は、1月20日に行われるという仕組みになっています。

鍵を握る「揺れる州」

 米大統領選挙では候補は50州すべてではなく、激戦州に人材及び選挙資金を注ぎ込みます。激戦州は、民主党か共和党か、どちらの党の候補にころぶのか予想が困難なので、「揺れる州」とも呼ばれます。民主党のカラーは青色で、共和党は赤色です。民主党及び共和党が圧倒的に強い州は、それぞれ青い州(ブルー・ステート)並びに赤い州(レッド・ステート)と言われています。一方、激戦州は青色と赤色を混ぜると紫色になるので、紫の州(パープル・ステート)と呼びます。12年のオバマ再選の選挙において、バージニア州オバマ選対で働いていた地域マネジャーが、同州北部にあるオークトンという地域を「ピンク」と呼んでいました。やや共和党寄りという意味です。

 バージニア州は、「激戦州」であり、「揺れる州」でもあり、しかも「紫の州」でもあったわけです。本選は、オハイオ州、フロリダ州及びバージニア州などの10州前後の激戦州における選挙人獲得の争いになります。上で触れたオバマ選対の地域マネジャーが、「激戦州のみで大統領を決定する選挙が、果たして民主主義と言えるだろうか」と疑問を呈していたのを思い出します。


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