WEDGE REPORT

2016年7月23日

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横江公美 (よこえ・くみ)

政治アナリスト

明治大学卒、博士(政策)。ヘリテージ財団上級研究員等を経て、東洋大学客員研究員。近著は「崩壊するアメリカ」(ビジネス社)。
 

「左」「右」が入れ違いレーガン主義が終わった

 国内雇用のためにTPPに反対し、オバマでもできなかった超富裕層への課税強化を主張するトランプは、経済政策で見れば、オバマよりも「左」に位置し、一方、ヒラリーは「右」に位置することになるが、外交・安保においても左右の定義が変化している。

 米国の政治に特化した新聞「ポリティコ」は、この様子を民主党のシンボルであるドンキーと共和党の象が、右、左に迷って右往左往するイラストで取り上げている。従来であれば、外交・安保で「右」といえば軍事力で介入することを厭わないという立場であり、共和党の考えであった。民主党はどちらかというと、外交・安保以上に国内政策への関心が高かった。

 しかし、これからの米国は世界での役割に専念することはできない。国土安全保障と世界への関与の割合が、争点として浮上している。ヒラリーとトランプの議論を見ると、世界への関与がそれなりに必要と考えるのはヒラリーであり、国土安全保障の観点を特に重視するのがトランプである。

 この40年の米国の政治を牛耳ってきた共和党は「レーガン主義」で成り立ってきた。レーガン主義とは、強い軍事力、小さな政府、キリスト教的価値観の3つからなるが、オバマ大統領の登場で、これらの価値は時代遅れになってしまった。「レーガン主義」は共産主義陣営、社会主義陣営に対するアンチテーゼだったからだ。

 しかし、40年の成功体験があるのだから、共和党の昔良き時代を愛する人々は、その事実を受け入れることができない。時代の居場所を失ったため、レーガン主義の一つ一つを先鋭化する動きが登場した。小さな政府を掲げるティーパーティーの登場が好例である。そして、行き先が不透明なため35人もの候補者が登場した。

 そんな共和党の中で時代の潮目を読んで圧倒しているのがトランプなのである。トランプは民主党員だったこともある。政治を財務諸表的に理解するビジネスマンのトランプだからこそ、経済格差の是正と国際政治の国内政治化というレーガン主義とは真逆の主張ができるのであろう。

 従来、同盟国に優しいのは共和党であったが、今では、民主党のオバマとヒラリーのほうが、世界への関与に積極的になっている。日米安保を重要視するのは、トランプではなく、ヒラリーなのである。ヒラリーは、国際政治については、共和党のトランプよりもレーガン的な志向を持っている。

 だが、民主党で他に人気のある政治家の志向や、そして共和党でのトランプの躍進を考慮すると、ヒラリーが大統領になっても、日本にとっては少しのモラトリアム期間を手に入れただけになる可能性が高い。ヒラリーであっても、冷戦時代や、ネオコンが活躍したポスト冷戦時代のようなレベルで世界に関与することは考えていない。

 アジアの安全保障における日本の役が増える流れは誰がなっても変わらない。「オバマ後」の米国を、日本こそきちんと認識する必要がある。
 

 Wedge7月号では、「知られざるトランプ」と題して、誰も予想だにしなかったトランプ氏の大統領候補指名を、さまざまな角度から検証しました。

■特集「MAKE AMERICA GREAT AGAIN! 知られざるトランプ」

  ・8つの名言でトランプをもっと知る(Wedge編集部)

  ・すべては客のニーズ次第 貴族からアジテーターへの転向
    (町山智浩/映画評論家・コラムニスト)

  ・「強い」オバマがつかんだ新潮流に乗っかるトランプ
    (横江公美/政治アナリスト)

  ・「勝ち馬」に乗らざるを得ない 共和党の深刻な分裂
    (中西 享/ジャーナリスト)

  ・世界はトランプをどう見ているか
    (木村正人/国際ジャーナリスト、坪内 淳/聖心女子大学教授、
    廣瀬陽子/慶應義塾大学総合政策学部教授、佐々木智弘/防衛大学校准教授)

  ・在日米軍は本当に撤退できるのか(川上高司/大阪大学博士)

  ・勝敗分けるは選挙参謀 苦戦するクリントンの弱み 
    (海野素央/明治大学政治経済学部教授)
 

  
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◆Wedge2016年7月号より

 


 

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