ネット炎上のかけらを拾いに

2016年8月2日

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 今回、警察は被害者の実名を公表しなかったことを「特例」だと説明した。この特例措置は、障がい者に対する差別を背景としたものだ。私たちの社会が障がい者への差別を容認しているのだ。そこに気付かず、ただただ匿名報道の事実だけを喜ぶ人に対して「ちょっと待て」と言いたい。

「特例」の匿名報道

 事件や事故についての実名報道の賛否はたびたび話題となる。インターネット上では特に、実名報道に対する拒否感・嫌悪感が強い。遺族や被害者に対して精神的苦痛を与える可能性があるにもかかわらず、マスコミは「傲慢な取材を行うことが多い」からだ。ネットユーザーの批判とマスコミ側からの反論はこれまでも見られたが、相模原殺傷事件でも同じことが起こった。

 今回の事件では周知の通り、神奈川県警が遺族の強い要望を理由に被害者の実名報道を行っていない。これについて朝日新聞の記者がツイッター上で「匿名発表だと、被害者の人となりや人生を関係者に取材して事件の重さを伝えようという記者の試みが難しくなります」とつぶやいたのだ。

 被害者の人生を紹介することで事件の重みを伝え、風化を防いで防犯意識を高める。「忘れない」「記憶に刻む」ことが追悼。これまでもマスコミから繰り返し言われてきたことだ。ツイッターユーザーたちは、これまでにすでに「匿名でも、人となりが伝えられなくても個人の死の重みは実感できる」「記者の自己満足に過ぎない」といった反論をしてきた。

 反論の内容が充分想定でき、議論を深めるどころか「袋叩き」に遭うことしか想像できないようなツイートを、朝日新聞の記者がなぜしようと思ったのかわからない。警察の権限で情報を出すか出さないかを決めることは隠蔽にもつながりかねない危うさがあるという指摘のほうが、まだ批判が少なかったのではないか。

 また、今回の事件で言えば、これまでのケースと違うのは被害者が全員障がい者であり、それが匿名報道の理由だったということだ。警察は今後も匿名報道を行うとは、もちろん一言も言っていない。今回は「特例」だったと言っている。なぜ特例措置が必要だったかと言えば、被害者19人全員の遺族が匿名報道を強く望んだからだという。そして警察はこの要望を受け入れることが妥当だと判断した。

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