風の谷幼稚園 3歳から心を育てる

2010年1月21日

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野村 滋 (のむら・しげる)

株式会社コンテンツ・ファクトリー代表

情報誌会社勤務時代に取材で、創立間もない風の谷幼稚園と出会う。その後12年間、風の谷幼稚園の変遷を追い続けている。風の谷幼稚園の教育実践記『4歳の胸のうち』『5歳の誇り』を同社から出版。

 「今日はお弁当を食べたらなわとびするよ!」

 「もう! やらなきゃいつまでたってもできるわけないよね? 大事なのはすぐに跳べることじゃなくて、跳ぼうと思う気持ち!!」

 今まで見逃してもらっていた子どもたちも、昨日までとは打って変わったような先生の毅然とした態度に引っ張られてようやく跳び始める。しかし、逃げたい気持ちは簡単に切り替わるものではなく、うまく跳べない最初の段階ではすぐに言動にあらわれる。

子どもに「逃げ癖」をつけさせないため、先生は心を鬼にして指導をする。

 子ども「ちょっと休もうか・・・」

 先生「休まない」(ピシャリと)

 子ども「いつになったら帰りの会?」

 先生「まだ平気だよ」

 子ども「お母さんたち、待たせちゃうよ」

 先生「今、“早くやめたいなあ”って思ってるでしょ」

 子ども「思ってない・・・」

 先生「じゃあ、腕を上にあげて“あんころもち”が跳べたら帰ろう」

 こんなやり取りを続けながらも、それでも自分からやろうという気持ちはなかなか高まっていかない。ふくれっ面や泣き顔で抵抗を繰り返す。しかし、「ダメ、泣いたって。腕を上げて“あんころもち”を跳ぶまでは帰らない」のひと言で万事休す。ようやく子どもは要求されたことをやり遂げる。

 このような「子どもの未来のために心を鬼にした指導」の中で、子どもたちは「逃げないで問題に立ち向かう姿勢」を少しずつ育んでいくのである。

 これに関連して、天野園長は現在の保育の在り方に疑問を投げかける。

 「今の保育では自分のやりたいことをやらせるというのが主流になりつつあり、自分のやりたいことがあれば、それを優先させるというような風潮が出てきています。もちろん、やりたいことをやるのは決して悪いことではありませんし、得手不得手はあるでしょう。だからといって目の前の問題を乗り越えさせなくてもいいというわけにはいきません、なぜなら『状況に合わせて行動する力』や『自分と向き合える力』が育たないからです。また、やりたいことをやっているから個性的に育っているという考えにも疑問が残ります。それでは『個性』と『わがまま』の線引きが難しくなるからです。そして何よりも問題なのは、『やりたいことをやらせる』という美名のもとで、大人が子どもに正面から向かい合わず、自分の都合で子育てをする影響が子どもの将来に降りかかってくることなのです」(天野園長)

 なお、「強制執行」後の子どもたちのドラマは、仲間の存在が加わって続くが、このあたりで止めておこう。風の谷教育の真骨頂ともいえる「なわとび」についてお伝えしたいことはまだまだあるが、さらに詳しくお知りになりたい方はこの模様を詳細に記した「4歳の胸のうち」をぜひともお読みいただきたい。

  そして今年、最後まで逃げていた子に対して「跳べないのは優介1人になっちゃうよ!」と涙を流して説得し、その子が壁を乗り越えた時、家に帰って我が事のように報告した子どもがいたことも付け加えておく。

※次回の更新は、1月28日(木)を予定しております。

風の谷幼稚園
園長・天野優子氏が、理想の幼児教育を実現するためにゼロから建設に乗り出す。様々な困難を乗り越え、1998年に神奈川県川崎市麻生区に開園。「人間が人間らしく、誇りを持って生きていく」ための教育を実践している。

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