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2016年9月1日

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川手恭輔 (かわて・きょうすけ)

コンセプトデザイン・サイエンティスト

1990年代から、大手メーカーでインターネットサービスの企画・開発・運用を手がけ、自ら立案したグローバルなサービスを複数立ち上げた経験を持つ。その1つは、サービスのデザインでグッドデザイン賞を受賞した。コンピューターサイエンス関連の翻訳本も多数ある。

 次のiPhone(7/7plus)が9月7日に発表されることが確実視されているが、新しいApple Watchも同時に発表されるかもしれない。8月19日にブルームバーグは、次のApple Watchに計画されていたモバイル(携帯)通信機能の搭載が、通信チップのバッテリー消費量が大きいという理由で延期されたと報じた。新しいApple Watchは、GPSが搭載されてクリスマス商戦の前には発売されるようだ。

 昨年の11月のこのコラムの『IoTもアップルが制するのか?Apple Watchの真の狙い』という記事で「Apple Watchは直接インターネットにつながることによって、その存在価値を大きく変えることができる」とモバイル通信機能の重要性を説明したが、アップルはその準備を進めていたようだ。

(GettyImages)

iPhoneの呪縛から解放する

 モバイル通信機能が搭載されたApple Watchは、iPhoneを携帯しなくても活用できるようになる。しかしiPhoneを所有していることが前提となっている限り、Apple Watchが多くの人々に受け入れられることはないだろう。

 2001年1月のマックワールドエキスポでiTunesを発表したとき、スティーブ・ジョブズは「Macはデジタルハブとなって、いろいろなデジタルデバイスに素晴らしい価値を与えるだろう」と言った。その10月にiPodが発売され、1000曲の音楽と、iTunesで編集したプレイリストを持ち運べるようになり、スクロールホイールという画期的なユーザーインタフェースによって新しい価値が生み出された。

 その時のiPodは、まだMacの周辺機器に過ぎなかった。1997年にCEOとしてアップルに復帰したばかりのジョブズにとって、Macの価値を上げることが最も重要な課題だっただろう。iPodの販売の伸び悩みに、部下がiTunesをWindowsにも展開すべきだとジョブズに進言したとき、

 彼は「くそったれ! 好きなようにするがいい! 俺は知らんからな!」と言って部屋から飛び出していってしまったそうだ。アップルは2003年4月にiTunes Music Storeを開始したが、10月にはiTunesをWindowsにも提供し始め、Macの呪縛から解き放たれたiPodのブレイクが始まった。

 モバイル通信機能を搭載することによってiPhoneの呪縛から解放されたApple Watchは、どのような新しい価値を生み出すことができるのだろうか。それは「ポケットからiPhoneを取り出さなくて済む」とか「座り続けていると、立ち上がって動けと教えてくれる」とかの「なくてもいい」ものではないはずだ。

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