2024年4月20日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年9月9日

 英エコノミスト誌は、エジプトでは新たな暴発を生む土壌が作られつつあり、シシ大統領では安定を提供できないとして、シシをいわば見限っています。しかし、たとえシシが2018年の大統領選挙での不出馬を表明するとしても、2年先のことであり、それまでシシ政権が続き、その間何とかしなければなりません。

 一番の問題は経済で、石油価格の下落、戦争とテロによる観光客の激減という政権がコントロールできない要因もありますが、政策が事態を悪化させているのも事実です。まず、通貨エジプト・ポンド高を維持しようとする政策があります。輸入品、特にエジプトの生命線ともいえる小麦の価格をおさえようとしたものですが、資本規制はドルの闇市場の出現を防げず、輸入部品、機械の不足を招き、かえって年14%のインフレをもたらすとともに、工業に害を与え、投資家をしり込みさせてしまいました。

肥大化した官僚組織

 次に、肥大化した官僚組織に手が付けられないことです。そのため民間部門の成長が阻害され、また過剰規制、わいろの横行を招いています。世銀のビジネス環境のランキングでエジプトは121位に低迷しています。また、食料、燃料などについての過剰な補助金が財政の悪化を招いています。

 これらの政策の変更は、既得権益者の抵抗が強く容易ではありませんが、財政と経済全体の破たんを避けるためには実施されなければなりません。この点については、外部が影響力を行使しえます。エジプトは財政、経常赤字を補うため、IMFや湾岸の産油国の資金援助を必要としています。エコノミスト誌が言うように、IMFや湾岸産油国は援助に、変動相場制の導入、公務員の削減や補助金の段階的廃止などの条件を付けるべきです。

 エジプトの抱える問題で最も深刻なのが、若者の問題でしょう。若者は、ムバラク政権を倒したアラブの春で中心的役割を果たしましたが、アラブの春の夢は砕かれ、若者の状況は極めて悪いです。失業率は40%に達し、博士号取得者の多くはサウジで職を求めるといわれます。その若者の人口はさらに増加しています。職がなく、不満を鬱積させている大量の若者の存在で、エジプトは火薬庫を抱えているようなもので、エコノミスト誌が新たな暴発を生む土壌が作られつつあると言っているのは、このような状況を指しています。

 若者の問題はエジプトに限ったものではありませんが、エジプトで特に深刻です。エジプトは中東の大国であり、エジプトの不安定化は、中東の不安定化に一層の拍車をかけます。エジプトも関係国も、何ができるか知恵を絞るべきではないでしょうか。


  
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