2024年12月22日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年9月9日

 シシ大統領の抑圧と無能がエジプトを駄目にしつつあり、新たな反乱を生む土壌を作っている、と8月6日付の英エコノミスト誌が警告しています。要旨は、次の通りです。

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 アラブ世界で鬱屈した若者が増えている。若者人口が多いのは好景気に繋がるものだが、アラブの専制支配者たちは彼らを脅威と見ている。親世代より教育があり、SNSで世界とつながり、政治的・宗教的権威に懐疑的な彼らは、アラブの春では最前線に立ってチュニジア、エジプト、リビア、イエメンの支配者を打倒し、多くの国の国王や大統領を震撼させた。

 しかし、今やこれらの国は、チュニジアを除き、内戦もしくは革命の後退に陥り、若者の状況は悪化しつつある。職を見つけるのは難しく、主たる選択肢は、貧困、移民、あるいはジハードだ。こうした状況が新たな暴発を生む土壌を作りつつあるが、中でも懸念されるのがエジプトだ。

 エジプトは地域の雄であり、エジプトの成否が中東のあり方を左右する。しかし、シシ大統領は、ムバラク以上に圧制的かつモルシ並みに無能だ。政権は湾岸諸国からの資金注入のおかげで命脈を保っている。莫大な石油収入にも拘らず、大きな財政赤字と経常赤字を抱え、そのため、ナショナリストを気取るシシもIMFへの資金救済要請を余儀なくされた。

 若者の失業率は40%を超えるが、政府は既に公務員で膨れ上がり、麻痺した国家統制経済の中にあって民間部門にも大勢の若者を吸収する能力はない。
勿論、エジプトの経済的困難は、政権の制御外の石油価格の低下、戦争とテロによる観光客の激減、アラブ社会主義の残滓や軍のビジネス利権等にも原因があるが、シシが事態を一層悪くしている。彼はインフレや暴動の誘発を避けようと、エジプト・ポンド防衛に固執したが、資本規制はドルの闇市場の出現を防げず、結局インフレを煽り、工業を駄目にし、投資家を怖がらせてしまった。

 また、スエズ運河を擁するエジプトは、商業的に非常に有利なはずだが、拡張したスエズ運河はかえって収入が減り、砂漠にドバイ級の都市を創る計画も挫折した。エジプトは戦略的に重要な国なので、シシとは我慢して付き合うしかない。しかし、西側は現実主義、説得、そして圧力で彼に対応すべきだろう。F-16戦闘機やミストラル型ヘリ空母など、不用で高額の兵器の売却は止め、経済援助には、変動相場制の導入、公務員の削減、補助金の段階的廃止等の厳しい条件をつけるべきだ。

 ただ、これらは徐々に行う必要がある。ショック療法を行うにはエジプトも中東も脆弱で不安定すぎる。もっとも、エジプトの官僚組織は簡単には改革を実行できないだろう。それでも改革への明確な方向性を示せば、エジプト経済への信頼回復につながる。湾岸諸国も改革を促し、シシが抵抗するなら援助を控えるべきだ。

 今のところ、新たな反乱やクーデターの噂はないが、エジプトの人口動態的、経済的、社会的圧力は容赦なく高まりつつある。エジプトの政治体制は再開放される必要があり、それには先ずシシが2018年の大統領選への不出馬を表明すべきだ。

出 典:Economist ‘The ruining of Egypt’ (August 6, 2016)
http://www.economist.com/news/leaders/21703374-repression-and-incompetence-abdel-fattah-al-sisi-are-stoking-next-uprising-ruining


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