2024年12月22日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年8月31日

 フィナンシャル・タイムズ紙は、習近平と人民解放軍との関係につき、最近の習近平の統治手法の転換に関する一つの解釈を示唆する、中国特派員のクローバーによる調査報道を7月26日付で掲載しています。要旨、次の通り。

(Xinhua/Aflo)

 人民解放軍は、今、習近平の下で抜本的な改革を進めている。4月、習は迷彩服を着て統合司令部を視察したが、従来、中国の指導者たちが軍を訪問する時は緑色の人民服を着ていた。迷彩服の着用は、政治エリートたちに明確なメッセージを送るものであった。習近平は伝統を破り、軍の一員であることを強調し、軍への態度が前任者たちとは異なることを示している。習は軍をその個人的権威の重要な柱としている。習は、毛沢東ですら使わなかった軍の「最高司令官」の肩書を用いている。

 より重要なことは、今回の視察を通じ、軍改革の勝利を誇示しようとした点にある。改革の過程において、反腐敗キャンペーンにより数百人の上級士官が追放され、これから30万人の兵士削減も行われる。また、統合司令部の開設は、軍における陸軍優位の終焉をも意味する。海軍、空軍、ロケット部隊の台頭が始まり、21世紀型戦争への準備が進められている。改革は、軍の指揮命令系統を改め、習の個人的な指揮下に置く試みでもあった。

 習は、反腐敗キャンペーンにより対立者を追放し自分の権威を高めることを狙った。軍は派閥主義、腐敗、政治指導者に対する軽視など様々な悪評を得てきた。習はそれを変えようとしている。党と軍との微妙なバランスが、南シナ海での緊張の高まりの中で、修正されようとしている。軍は指導者に対し「条件付きの従属」をする。公式に、軍は党に従うが、軍は実際には一人の党幹部にのみ従う。それが中央軍事委員会主席である。習は軍を自らの権力基盤にしようとしている。

 毛の死後、鄧小平は軍を100万人削減した。習は鄧小平と同じやり方を取っている。彼らの頭を叩き、“お前達はダメだ。腐敗している。しかし、私が建て直してやるから大丈夫だ”というやり方である。習にとってのもう一つの動機付けは、胡錦濤と軍との関係から得られる教訓である。2011年に軍がステルス戦闘機のテスト飛行をした時、胡はゲーツ国防長官と会っていたが、そのことを知らなかった。習は、この経験から学んでいる。

 習はまた、四総部(総後勤部、総参謀部、総政治部、総装備部)の実質的な解体にも成功した。これらはまだ存在はしているが、その影響力は大きく削がれた。現在、すべての部は習近平がトップとする中央軍事委員会の直接管理下に置かれ、他の11の部署と権力を分け合っている。軍改革には軍の内外からくる抵抗が依然として存在する。軍内にも若い幹部たちを中心に、改革を支持するものもいるが、それでも改革は抵抗に遭っている。抵抗の大部分は陸軍から来ている。伝統的に陸軍は軍の支配的な地位を享受していたが、その地位が失われつつある。

 問題は、改革され近代化された後の「軍」という戦闘装置を使って習が何をしようとしているかである。習は、軍は強くなければならないと考え、軍に強い関心を払っている。ナショナリズムへと国の方向を転換しようとしている。

出典:Charles Clover,‘Xi’s China: Command and control’(Financial Times, July 26, 2016)
http://www.ft.com/cms/s/0/dde0af68-4db2-11e6-88c5-db83e98a590a.html#axzz4G3Jfds2e
 


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