2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年8月22日

 台湾は南シナ海をめぐる中比仲裁裁判を受け入れないとしていますが、台北タイムズの7月14日付社説は、蔡英文総統は従来の「U字線」ではなく実効支配に基づく主権主張をしていると分析、南シナ海の「島」への主権主張に向けて新たな法的構成を構築するよう説いています。要旨、以下の通り。

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絶対に判決を受け入れない

 南シナ海をめぐる中比仲裁裁判の判決(7月12日)は、台湾を法的に拘束するものではないが、台湾が支配する太平島(Itu Aba)を含む、スプラトリー諸島の全ての「高潮時地物」を岩に格下げしたのは驚きだ。太平島は、元来フィリピンが提起した仲裁に含まれていなかったが、台湾外交部の発表によれば、仲裁裁判所は自らの権限を拡大し、太平島は排他的経済水域(EEZ)を持たない岩であると宣言した。

 蔡英文政権は、馬英九前政権が支持していた中華民国の「U字線」政策への調整を行っていた。U字線、あるいは「11段線」は、1947年に中華民国により引かれた。これを、国民党が国共内戦に敗れ台湾に逃れた後、中国共産党が1953年にベトナムに配慮して「9段線」とした。蔡政権は最早、太平島への主権を「歴史的権利」ではなく、実効支配に基づき主張しているようである。12日夜、総統府は、判決を「絶対に受け入れない」との声明を発表したが、U字線への如何なる言及も避けた。

 総統府は、「太平島についての仲裁裁判所の決定は、台湾の南シナ海における島と付随する水域への権利を深刻に損なった」と述べた。太平島のみならず南シナ海の「島」への主権をU字線政策無しでいかに維持するのか疑問が残るとの議論があり得るが、蔡政権は、台湾の主張とレトリックを国際慣行に沿ったものとする努力をした。

 仲裁裁判では、台湾は「中国の台湾当局」と言及され、台湾外交部は「中華民国の主権国家としての地位を貶めるものだ」と非難している。しかし、「一つの中国」の枠組みの下での昨年の馬英九と習近平の会談を考えると、台湾と中国が連携しているとの認識を世界が振り払うのは困難かもしれない。国民党は、蔡政権はU字線を支持するよう主張しており、国民党には、台湾に共に先祖伝来の財産を守るよう呼びかけている中国との協力を主張する立法委員もいる。

 判決は、太平島を岩に格下げしたが、同島への台湾の実効支配や主権をはく奪するものではない。蔡は太平島につき強硬な姿勢をとるよう圧力を受けるかもしれないが、台湾の将来の法的議論の構築には、新たな基盤と努力が可能であるし、そうすべきである。

出典:‘Rock-solid sovereignty over Itu Aba’(Taipei Times, July 14, 2016)
http://www.taipeitimes.com/News/editorials/archives/2016/07/14/2003650975


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