米国防大学中国軍事問題研究センターのウスナウ研究員が、Foreign Policy 誌ウェブサイトに6月30日付で掲載された論説において、中国の中央国家安全委員会の活動実態が見えないことについて、解放軍や官僚組織の抵抗にあっているのではないかとの推測を示しています。要旨、次の通り。
第一回会議後、音沙汰なし
中国の中央国家安全委員会(NSC)は習近平によって2013年末に設立された。しかし、その全構成員は公表されたことはないし、14年4月以来、公表された会議の開催もない。国内外の危機対応におけるその役割は明確ではない。
当初、このNSCの支持者たちは、強力で十分な人員を持つNSCを持つことによって、危機に対してより効率的な対応をすることができ、政策決定者への情報提供を増やし、軍や外交部、情報機関などの諸組織の活動を統合できると主張した。既存の体系では、課題ごとに場当たり的に対応し、官僚組織を統合する中心的な機構も欠如していた。NSCはこの体系を打破することが期待された。
多くの観察者は、習近平が就任後の早い時期にNSCを設立したことは、その権力確立の能力を示すものだと考えた。14年1月、政治局はNSCが「全体的な計画を制定し、国家安全保障に関する主要問題と主要業務の調整を行う」と発表し、習近平を主席とした。14年4月には、NSCの第一回会議が開かれ、「総合的国家安全保障観」を定めた。しかし、奇妙なことに、それ以来何もないのである。
NSCが関わるべき問題がなかったわけではない。15年3月のイエメンからの中国人の脱出、15年4月の天津での爆発事件、南シナ海での係争など、いずれの問題でもNSCの反応は確認されていない。
一つの可能性は、中国共産党がNSCの活動を極秘にしているということである。NSCは何か役割を持っているが、公表されていないだけかもしれない。しかし、秘密主義の強い中央軍事委員会ですら会議の開催や決定を公表していることを考えれば、そうとは思えない。また、NSC設立が習近平の権力確立のためだとすれば、習近平の指導の下での前進と成功を示すNSCの活動を公表しない理由はないはずである。
NSCはまだ発展途上にあるとも考えられる。内部の決定過程や権力構造、人事などはまだ決定されていないという可能性である。しかし、これもNSCに関する情報を公表しない理由にならない。
最もそれらしい説明は、エリートや官僚組織がNSCの発展に対して抵抗、妨害をしているという可能性である。この説明は、最近の習近平の統治に対して党内で反対が生じている状況にも符合している。官僚組織に関しても、誰がNSCに参加すべきで、NSCがどの組織と調整を行うべきかについても議論があったはずである。しかし、重要な当事者である軍には文民部門と協力するインセンティブはない。また、NSCは中央軍事委員会と国務院とも業務の重複がある。中央軍事委員会と国務院を支持する者たちは、主導権を残すことに成功しているようである。
NSCに関する沈黙は習近平にとって良い兆候ではない。それは、習近平がNSCを実質的な機能を持つ組織にすることに失敗したことを示す。もし上に挙げたエリートや官僚組織の抵抗という説明が正しければ、習近平の指導権確立に対しては疑問が呈されざるをえない。今この瞬間、NSCは習近平の弱さの表れとなっている。
出典:Joel Wuthnow,‘China’s Much-Heralded NSC Has Disappeared’(Foreign Policy, June 30, 2016)
http://foreignpolicy.com/2016/06/30/chinas-much-heralded-national-security-council-has-disappeared-nsc-xi-jinping/