今のところ核合意はイランの核活動の抑制に効果を上げているが、イラン側の疑念、周辺諸国のイランへの疑念、イラン強硬派の動き、制裁解除の効果への失望等、懸念材料はいくつもあり、合意は見かけよりも脆弱かもしれない、と6月25日付の英エコノミスト誌が述べています。要旨は、以下の通りです。
ボーイング20機を購入したイラン
一見、イランとの核合意はうまくいっている。6月19日、イランは米ボーイング社の航空機20機の購入を発表した。エアバスの航空機購入も約束している。
国際原子力機関(IAEA)の報告書によると、イランはアラク原子炉の作業凍結、重水の貯蔵量、ウランの濃縮量等についても約束を遵守しているようだ。
ただ、核合意反対派は、イランに認めるべき制裁解除を米国が拒んでいると非難しており、これがイラン側に核開発再開の口実を与える可能性はある。一方、ケリー国務長官は、米国の銀行はまだ禁じられている対イラン投資を盛んに欧州の銀行に勧めている。制裁解除の恩恵が早く具体化しないと、ロウハニ大統領ら改革派が打撃を受けると恐れているのだ。しかし欧州の銀行は、米司法当局による追及はないとワシントンが保証しない限り、そうしたリスクは冒したくないかもしれない。以前、制裁に違反した企業が数十億ドルもの罰金を課された。それに、腐敗が蔓延し、革命防衛隊がほぼ全ての重要取引に関わっているイランでのビジネスは危うい。
近隣諸国も核合意について判断を留保している。確かに核合意により、イランが核保有国になる脅威は当面取り除かれ、中東の核拡散リスクは減った。しかし、その一方でイランの不正行為は増えた、というのが地域の共通認識だ。特に湾岸諸国は、イランは核の野心を延期しただけで、次の15年を高度な遠心分離機やミサイルの開発に使うつもりだと今も確信している。
また、短期的には、核合意を脅かす最大の脅威はイラン側の失望かもしれない。イランの人々は制裁解除の効果に非常に期待しており、そのため、それが現実化しなければ、熱意は冷めるかもしれない。トランプ大統領の出現や、イランの強硬派がさらに主張を強めるリスクもある。あるいは、イランがごまかしをしてそれが発覚するようなことがあれば、全てがひっくり返る。核取引は一回限りで完了するものではない。無事に15周年を迎えるには、全関係国によって育まれる必要がある。
出 典:Economist ‘Teething pains or trouble ahead?’(June 25, 2016)
http://www.economist.com/news/middle-east-and-africa/21701121-agreement-curb-irans-nuclear-activities-working-it-may-be-more