2024年11月25日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年8月1日

 イランが、制裁解除の効果を非常に期待していたのに、現状が期待に反していることに失望していて、それが核合意を脅かす最大の脅威かもしれないと、上記社説が言っているのは、その通りでしょう。

 イランが核合意を忠実に履行していることは確かなようです。IAEAは、イランの行動は「文句無し」と言っています。問題は、核合意の結果、イランが期待したような経済効果を上げていないことです。大規模な航空機購入の契約は結ばれましたが、それ以外にイランに対する投資は停滞したままです。

我々が妥協しても米国は破壊的役割を止めない

 この状態に対し、ハメネイ最高指導者は今月初め、「米国は信用できない。核協議は、我々が妥協しても米国は破壊的役割を止めない」と述べました。これは政治的発言ではありますが、イラン人の感覚を代弁している面もあります。

 なぜ、欧米諸国が制裁を解除したのに、このような状態なのでしょうか。
それは、米国が、核開発がらみの制裁の他にも、イランの人権、ハマス、ヒズボラなど米国がテロ組織と指定したものへの支援、それに長距離ミサイル開発に関しても制裁を課しており、これらの制裁は核合意の対象ではなく、合意後も継続しているからです。

 特に、制裁の対象組織に指定されている革命防衛隊は、広範なビジネスに関与しており、革命防衛隊の関与している企業と取引すると制裁の対象となります。そのため、欧州の銀行はイランとの取引に躊躇しています。2014年、仏大手銀行のBNPパリバが、米国の制裁に違反してイランとスーダンと取引をしたとして90億ドルの罰金を払わされました。この前例がある以上、欧州の銀行が躊躇するのも無理はありません。

 イランがどの程度米国の制裁体制を認識しているか分かりませんが、ハメネイが核交渉の英断を下したのは、イラン経済を苦境から救うためでした。核合意にもかかわらずイラン経済を活性化させるような投資が行われないとなると、イランが失望し、米国に不満を持つのも当然であり、核合意の意義を疑うことになりかねません。

 現状の打開のために何がなされるべきでしょうか。米国がテロ組織支援、長距離ミサイル開発などを対象にした制裁を緩和、解除することは考えられません。そうとすれば、欧州の銀行の対イラン投資を促すためには、米国政府が、外国の銀行がどうすれば制裁違反にならないかについての明確なガイドラインを示すことが必要でしょう。

 オバマ政権にとって、イランとの核合意は、功績として残るような成果です。オバマ政権がその成果が無にならないようにするのは当然です。
 

  
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