2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年8月4日

 6月下旬のイラク政府軍によるファルージャ奪還について、6月30日付フィナンシャル・タイムズ紙社説は、重要な軍事的勝利であると評価しつつ、IS(イスラム国)の根絶には軍事的対処だけでは不十分で、イラク政治の大幅な改革が重要である、と言っています。社説の要旨、次の通り。

イラク軍によるファルージャ奪還

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 米空軍の支援を受けたイラク軍によるファルージャ奪還は、ISとの戦いにおいて、最も重要な勝利の一つである。ファルージャは、2003年の米主導の進攻直後にISISの前身に当たるアルカイダ関連組織のジハーディストの手に落ちて以来、イラクにおける紛争状態の指標であり続けてきた。ファルージャをめぐる戦闘は今回で3度目であるが、イラクの政治力学に大きな変化がない限り、これで最後ということにはならないであろう。その面では、見通しは全く心強いものではない。

 ISは今や、2014年に奪取しカリフ国の樹立を宣言した領域全体で、軍事的圧力を受けるようになっている。シリアでは、ロシア軍の支援を受けた政府軍が南西方面からラッカにあるISの拠点に迫る一方、米の支援を受けた反乱軍が北側から迫り、トルコ国境におけるISの供給線を脅かしている。

 イラクでは、ファルージャの奪還が軍の士気を高めている。ISの司令部があるモスルを視野に入れると、イラク政府がファルージャ奪還を受けて人道危機にどう対処するかが、スンニ派市民の信頼と支持を勝ち取る鍵となる。政府軍は、取り戻した領域を、更なる宗派的対立を煽ることなく管理し得ることを証明する必要がある。

 しかし、これまでの結果は芳しくない。ファルージャでの戦闘が激化すると、アバディ首相は住民の安全な避難経路を求めたが、スンニ派の市民をもスパイとみなすイランの支援を受けたシーア派民兵が展開する外縁部では、戦慄すべき虐待があったと報告されている。二つの敵対勢力の間に挟まれた何万もの文民が、再定住を保証され、更なる虐待から保護されなければならない。
地域の内外の諜報機関からの更なる警戒情報も必要であろう。イスタンブールの空港での攻撃が示す通り、ISISが戦場で圧力を受けるに従い、他国がテロ攻撃の形でブローバックを受けることになろう。

 より長期的には、過激主義を根絶するためには、イラクの分裂した地域社会は、結合力を高めた国家の中で、より大きな共通の利益を提供されなければならない。現在、クルド人、スンニ派兵士、シーア派民兵、政府軍といった様々な派閥が、IS根絶という共通の軍事的目標を共有している。政治的目標については異なる。そうである限りISの脅威除去の実現は難しい。イラクで何度も示されている通り、スンニ派住民は、シーア派至上主義により疎外されるならば、政府の努力を熱心に支持することはないであろう。

 ここ10年米国の対イラク政策は、向こう見ずな政策から自己満足的な政策に転換したが、その間米国の影響力は衰えた。しかし、オバマが、危険な宗派主義のマリキ首相が交替するまでバグダッド支援のための空爆を控えたのは正しかった。後任のアバディはより広範な合意を得ているが、警察力の再編、クルド人との石油取引、政権内の汚職政治家のテクノクラートによる置き換えなどを、既得権益層により邪魔されている。ISとの軍事的戦いに焦点を当てるのは重要ではあるが不十分である。

出典:‘The recapture of Fallujah is a pivotal moment’(Financial Times, June 30, 2016)
http://www.ft.com/cms/s/0/0ef3cbea-3ec1-11e6-8716-a4a71e8140b0.html#axzz4DALEgVwt


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