南シナ海についての国際仲裁裁判所の判決は中国の「9段線」に関する主張を拒絶した点で歴史的意義を有するものとなりました。ただし、この裁決は、台湾との関係では、台湾当局を特殊な問題に直面させることになりました。
本社説は、台湾が主権を主張し、実効支配してきた「太平島」について、台湾としては、新たな法的論拠を構築して今後とも主権を確保する必要がある、と述べています。この社説の内容は、今日の蔡英文政権の立場を反映するものです。
台湾との共闘を探る中国
蔡政権としては、裁定を受け入れることはできない、との立場をとっていますが、中国の本件裁定に対する立場とは一線を画しており、中国の主張する9段線を含むいわゆる「U字線」についての歴史的主張を行うことなく、ただ、「太平島」が島としての十分な条件を備えたものであり、単なる岩ではないとの主張を行うにとどめています。
今回の裁定が台湾当局に言及した際、「中国の台湾当局」と記述した点は、複雑な中台関係に対して十分な配慮が行われていないものとして、台湾では与野党がともに裁定を非難しています。中国としては、今回の仲裁裁判の裁定直後に、台湾との間で、南シナ海問題全体に関し、「共闘できないか」との態度を示したことがありましたが、蔡政権としては、あくまでも「太平島」の主権問題は歴史的経緯をもつ9段線(「U字線」)の問題とは関係がなく、「太平島」という特定の島の主権問題であるとして、はっきりと中国の立場と距離を置く対応をしています。
台湾では、これまで民進党政権、国民党政権ともに、「太平島」をEEZを持つ島として扱い、陳水扁、馬英九の両総統はともにこの「島」を訪問したことがあります。日本にとって直接関連を持つ島の主権問題として「沖ノ鳥島」があります。馬政権の末期に台湾は「沖ノ鳥島」は島ではなく、岩であるとの立場をとり、日本政府の立場に強く異を唱えましたが、蔡政権になってから、これを急きょ変更し、「沖ノ鳥島」が島であるか、岩であるかは、国際ルールに従うべきであって、それまでは台湾としてはいかなる法的立場もとらない、との基本方針を打ち出しています。
日本としては、「沖ノ鳥島」をめぐる歴史的経緯、地理的条件などに加え、国際ルールについての自らの立場を十分に理論武装しておくことが、中国、韓国のほか、台湾に対処するうえでも喫緊の課題となるでしょう。
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