2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年8月31日


ロシアを含む専門家への取材を踏まえた調査報道で、おおむね正確と認められます。習近平が人民解放軍に接近しているという話は、来年の党大会において自分の陣営を強化するための戦術的な動きではないかとも思われますが、この論評は更に一歩進んで、習近平は軍を自身の権力基盤としようとしている、と主張しています。

毛沢東的なものへの回帰

 習は、本年に入り習個人の権威を高め、イデオロギーを重視する方向を前面に打ち出してきました。党内外の強い反発を見てトーンダウンさせてはいますが、習が毛沢東的なものへの回帰を試みている可能性は高いでしょう。そう考えれば、その重要な一環として、習が人民解放軍に権力の基盤を置こうとしているとするこの論評も十分成り立ち得ます。

 習は、人民解放軍の陸軍中心の基本構造に手をつけました。当然、陸軍の反発と抵抗は大きいものがあります。そこで、一方で反腐敗を通じ陸軍に圧力をかけ続けながら、同時に陸軍に対する配慮も見せています。7月27日の習による陸軍機関視察もその一環です。

 しかし、習の軍重視の統治戦略が正しいかどうかは別問題です。毛沢東のやり方は毛沢東だからできたのです。習が軍を使って党と国民を統制すること自体、至難の業です。それに加え、軍に依拠すればするほど軍の意向に従わざるを得なくなります。そこには破綻が待っているだけです。中国共産党の統治にとり死活的に重要な「経済の持続的発展」は、経済改革を「全面的に深化」させるしかありません。その鍵は「自由な市場機能の発揚」にありますが、統制の強化とは矛盾します。対外強硬姿勢に傾きがちな軍の対外政策も経済の発展にマイナスです。統制の強化は、急速に成熟している中国社会の反発も招くでしょう。

 来年の党大会に向け、習がどの程度、権力基盤を固めることができるのか、経済と軍事の優先順位をどちらにするのか、経済運営がどうなっているのか等々。今後の中国の動向を見る上で、これらをしっかりと観察していく必要があります。

  
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