チャイナ・ウォッチャーの視点

2016年9月27日

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小原凡司 (おはら・ぼんじ)

笹川平和財団 上席研究員

1963年生まれ。85年防衛大学校卒業、98年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。IHS Jane’s、東京財団研究員などを経て現職。

 だからこそ、いかに不信に満ちた関係であっても、中国は、ロシアの協力が欲しいと考えるのである。軍事的にも、一国では米国に対抗できないと考える中国は、ロシアとの安全保障協力関係を見せつけることが不可欠だと考える。特に、南シナ海問題において劣勢に立たされたと考える中国は、「海上連合」合同演習によって、南シナ海におけるロシアとの緊密な協力を米国に見せつけたかったのだ。

台湾、フィリピン、ベトナムとの関係

 ただし、南シナ海の中でも、演習海域は微妙な位置に設定されている。演習海域は、南海艦隊司令部が所在する広東省湛江の東側海域とされたのだ。この海域のすぐ東に位置するのが台湾とフィリピンである。中国にとって、台湾とフィリピンは、圧力をかけたい相手だ。台湾への圧力は、台湾独立の動きを阻止するためである。フィリピンは、仲裁裁判所に申し立てた張本人であり、中国としては、仲裁裁判所の司法判断をなかったことにするためには、中国の主張に対するフィリピンの合意を取り付けなければならない。

 さらに重要なのは、台湾とフィリピンの間の、バシー海峡だろう。南海艦隊所属の中国海軍艦艇が太平洋に出るためには、バシー海峡を抜けるのが最も効率が良い。しかし、米海軍が南シナ海で行動していては、中国海軍の艦艇は、自由に太平洋にでることができない。特に戦略原潜(核弾頭を搭載する弾道ミサイルを発射可能な原子力潜水艦)は、米海軍に探知されずに太平洋に出ることができなければ、米海軍の攻撃型原潜に追尾され、米国に対する核報復攻撃の最終的な保証とは成り得ないのだ。

 これらの意味では、今回の合同演習は、戦略的に重要な海域で行われたと言うことができる。一方で、ベトナムに近い海域で実施したくなかったという理由も考えられる。湛江から西側の海域で合同演習を実施すれば、ベトナムに対して圧力をかけることになる。フィリピンとの問題が解決しない中、中国も、ベトナムを刺激することは避けたいだろう。

 しかし、さらにベトナムに気を使ったのはロシアである可能性もある。ベトナム軍の武器装備品はロシアから購入している。ベトナム空軍は、少なくとも中国と同時期からSu-27戦闘機を運用している。また、ベトナム海軍はゲパルト級フリゲートもロシアから導入した。そしてロシアは、中国が最も嫌がるキロ級潜水艦もベトナムに供給しているのだ。

 中国とベトナム両海軍は、西沙諸島(パラセル諸島)及び南沙諸島(スプラトリー諸島)の岩礁等をめぐって、海上戦闘を繰り返してきた。ロシアがベトナムに近代的な艦艇や航空機を供給することは、単に伝統的に良好なベトナムとの安全保障協力関係を維持するというだけでなく、中国が南シナ海において一方的に優勢になることを防ぐ効果もある。

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