2024年4月24日(水)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2016年9月27日

米中ロ、それぞれの思惑

 これで、中国が完全にロシアを信じることができるだろうか。ロシアが、南シナ海において、中国との海軍合同演習に応じたのは、中東での米国との軍事的ゲームに関わっている可能性もある。アジア太平洋地域において、中国の背中を押して米国と対峙させれば、米国は、中東だけでなく、アジア太平洋地域にも軍事的資源を投入しなければならなくなる。ロシアは労せずして、中東における米軍の能力を削ぎ、軍事的ゲームを優位に進めることができるかも知れないのだ。

 中国は、ロシアの思惑を理解していない訳ではないだろう。それでも中国は、ロシアとの安全保障協力関係を誇示しなければならない。中国は、真剣に米国が中国に対して軍事力を行使することを懸念しているからだ。米国とロシア、どちらの方が中国にとってより危険かという比較の問題である。中国は、自身が経済発展を追求すれば、米国が自国の権益を守るために軍事的手段を用いて中国を攻撃する可能性があると考えている。中国による、南シナ海の実質的な領海化及び人工島の軍事拠点化は、「米国に対しては」防御的であると言うこともできる。

 中国が考えるように、南シナ海でも、米中ロという大国がそれぞれの思惑によって、ゲームをプレイしている。しかも、米ロ両大国の、南シナ海におけるゲームは、中東のシリア問題等を巡るゲームの一部、あるいは番外編という側面も持っている。中国海軍の行動は、米ロという大国関係の影響を受けて、強硬の度合いを増減させるかも知れない。

 しかし、中国にとっては、南シナ海問題は自国の存続に関わる安全保障の問題である。これ以上に重要な問題はない。戦争に勝利する見込みがない以上、現段階で、中国海軍は米海軍との衝突を避けるだろう。現在の中国は、ロシアを利用しながら、米国をけん制してその軍事力行使を抑止する以外に、米国の妨害を排除しつつ経済活動を拡大する方法はないと考えている。その間に、米国を凌ぐ海軍力を構築する努力を進めるのだ。

 中国の目標は変化していない。米中ロの大国関係の状況によって、中国の行動に変化が見られるかも知れない。しかし、目標達成に向けた大きな流れは変化しないことも同時に理解しなければ、中国の意図を見誤ることになりかねない。

  
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