2024年4月26日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年11月3日

 リチャードソン米海軍作戦部長は、A2ADは正確な用語ではないので、使わないことにすると言っていますが、彼が真に言わんとしていることは、A2ADは一般に考えられているほど強力でないということです。すなわち「拒否」の対象となる領域に入るのは危険を伴うが、乗り越えられないことはない、当該領域は外から接近することが想定されているが、内側から攻撃することも可能である、と言っているのです。

米国の底力に期待

 これは一般論ですが、実際にそれを可能にする兵器体系、戦略があるかどうかが問題です。
A2AD戦略は1996年の台湾危機に際し、米国が台湾海峡に空母艦隊を送り、中国が台湾の総統選挙への内政干渉をあきらめざるを得なかった屈辱をバネとし、その後20年近くをかけて兵器体系、戦略を築き上げてきたもので、米国がリチャードソンの言うように、これに有効に対処できるかどうか定かではありません。また、リチャードソンは、海域はそれぞれ特徴を異にするので、A2ADは一律には適用できないと言っていますが、中国のA2ADは西太平洋、東アジア、さらに特定すれば南シナ海地域を対象に考えられたものです。

 リチャードソンは、今すでに米国は中国のA2AD戦略を克服できると言っているのではなく、克服できるよう全力を尽くすとの意思を表明したものと考えられます。米国の戦略思考の柔軟性、軍事技術のすそ野の広さと技術革新力を考えれば、それは不可能ではありません。米国は、これまでも何度となく敵国、あるいは潜在敵国から挑戦を受け、それを乗り越えてきました。A2ADについても、米国のこのような底力に期待したいところです。

  
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