2024年12月15日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年11月3日

 リチャードソン米海軍作戦部長が、National Interest誌のウェブサイトに10月3日付で掲載された論説において、今後米海軍としてA2AD(接近阻止・領域拒否)という用語を使用することは控える、と述べています。要旨、次の通り。

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正確な定義のないA2AD

 A2ADの意味は正確でない。ある人には、立ち入り禁止地域を示唆し、そこに入るには多大な危険を伴う。他の人にはそれは技術の集まりを意味し、また別の人には戦略を意味する。つまりA2ADはぞんざいに使われている用語で、正確な定義がなく、いくつかのあいまいか、相反するメッセージを与えるものである。

 海軍では、任務遂行のためすべてを明確に理解しなければならず、その観点からA2ADという用語は使わないことにする。

 その理由は以下のとおりである。

 1)A2ADは何も新しい現象ではない。紛争地域を含め、海域を支配し力を投影することは昔から行われており、米国が海軍力に頼るのはまさにそのためである。

 2)「領域拒否」の「拒否」という用語はしばしば既成事実という印象を与えてしまうが、より正確には願望である。「拒否」は立ち入れない領域という印象を与えるが、実際ははるかに複雑で、そのような領域に入るのは危険が伴うが、脅威は乗り越えられないものではない。

 3)A2ADは本来的に防衛を志向しており、当該領域に外から接近することが想定されているが、当該領域の内側から攻撃することも可能である。

 4)A2ADにとらわれると、対立と競争の次のレベルの問題を考慮できなくなる。

 A2ADという用語が正確性を欠いており、一つがすべてに適用されるという簡素化のし過ぎの問題がある。実際には海域ごとに特徴が異なることが重要である。

 それではA2ADの代わりに何を言うべきか。海域ごとに問題が異なるので、一つの用語を使うことはさらなる混乱を招く。その代わりに我々の戦略と能力が何かを具体的に話すこととする。
海軍は海上の優位を維持することに集中すべきである。優れた装備、柔軟な作戦概念、そして最も大切なことだが、実績を上げるチームによって、よりよく考え、より早く学ぶことができる。これらの組み合わせにより、いかなる敵をも凌ぐより有能で、適応性にとんだ戦力が得られる。

 我々は言葉を超えて行動しなければならず、実際行動している。訓練、実験、戦争ゲーム、新技術により能力の向上を図っている。海兵隊や他の部隊と密接に協力している。民間部門や学会、産業部門と協力し、最善の考えを早く取り入れるように努めている。そして世界の友好国の海軍との協力関係を強化している。

 変化のペースはいたるところで加速している。勝利の決め手は極めてわずかである。米国の優位を保つためには、これまで以上に明晰に考え、今日と将来の脅威に対する我々の任務遂行のため決然とした行動を取る必要がある。

出典:John Richardson,‘Chief of Naval Operations Adm. John Richardson: Deconstructing A2AD’(National Interest, October 3, 2016)
http://nationalinterest.org/feature/chief-naval-operations-adm-john-richardson-deconstructing-17918


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