英国のメイ首相は、新たな条件付きでヒンクリーポイントの原子力発電所のプロジェクトを承認しましたが、エコノミスト誌9月15日号は、プロジェクトの経済性と合理性に疑義を表明し、同首相はこのプロジェクトを否認すべきであった、との趣旨の解説記事を掲載しています。要旨、次の通り。
政治的考慮の勝利
就任後の最初の2カ月、メイ首相はキャメロン首相の政策と決別することを常としてきた。従って、7月にヒンクリーポイントの原子力発電所プロジェクトの承認プロセスに待ったをかけた時、またもやUターンかと思われた。しかし、9月15日、新たな条件付きであるが、プロジェクトに青信号を出した。これは経済的考慮に対する政治的考慮の勝利である。
メイの主たる懸念は巨大でリスクの大きいプロジェクトへの外国、特に中国の関与にあったと思われる。フランスのEDFが建設するが、中国がコストの3分の1に当たる60億ポンドを投資する。安全保障に関する恐怖を鎮めるために、英国政府は将来のすべての原子力プロジェクトにおいて「黄金株」を取得すること、外国の所有の意味合いを十分吟味するため「枢要なインフラの所有と支配」に対するアプローチを変更することを表明した。また、EDFは英国政府の同意を得ることなくこのプロジェクトの完成前に撤退することは出来ないとの合意をEDFから取り付けた。
プロジェクトの進行を認めることで、メイはEU離脱についてその協力が必要なフランス、および将来の投資の大きな源泉である中国との関係を毒することを避けた。政府の発表はブラッドウェルで中国の設計による原子炉を建設するという中国の希望、あるいはサイズウェルの原子力発電計画への中国の参加の可能性には触れていないが、中国広核集団(China General Nuclear Power、ヒンクリーポイントに投資する国営企業)は「これでヒンクリーポイント、サイズウェル、ブラッドウェルにおいて原子力発電能力の提供に前進することが出来る」と述べている。
このプロジェクトのコストの60%は英国に落ちるので製造業界はハッピー、そのピーク時には建設関係の雇用に加えて5000人の雇用を生むので労働組合もハッピーであろう、とされる。
しかし、以上のようなことはすべて的外れである。安全保障の問題はどうであれ、政府は劣悪な取り引きに陥った。電力の買い取り価格は現行の価格の2倍以上のメガワット当り92.50ポンドが35年間にわたり保証されている。風力や太陽光のような再生可能エネルギーのコストが下がり、また蓄電技術のような新しい技術が進化するに伴い、ヒンクリーポイントの電力コストはさらに高値に見えることとなろう。また、EDFが手がけるフランスとフィンランドの同様のプロジェクトで何年もの工事の遅延が発生していることに見られるように、このプロジェクトの欧州加圧水型炉の技術は確立されていない。
ヒンクリーポイントの進行を認めることでメイは短期的な政治問題を解決したが、長期的な経済合理性の問題を作り出した。
出典:‘Hinkley Point gets the green light’(Economist, September 15, 2016)
http://www.economist.com/news/britain/21707303-theresa-may-puts-political-considerations-economic-and-energy-related-arguments-hinkley