2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年10月20日

 エコノミスト誌9月17号掲載の解説記事が、ISにイスラム過激派のお株を奪われたアルカイダだが、過去の経験に学び、より現実主義的な、従って、より危険な存在となって復活しつつあるかもしれない、と警告しています。要旨、次の通り。

シリア・アレッポ(iStock)

危険なのは、彼らが人々の支持を集めていること

 アフガニスタンを追われ、シリアやイラクでは分派のイスラム国(IS)のために影が薄くなったアルカイダだが、脅威が消えたわけではなく、各地の支部は活発に動いている。むしろ、ISがラッカやモスル等の重要拠点を脅かされ、「カリフ国」解体の可能性が出て来たのに対し、アルカイダはアラブ世界での地盤確保の夢を実現しつつあるかもしれない。中でも、シリア支部のアルヌスラ戦線は、アサド政権との戦いで中心的役割を担っており、アルカイダは近くイスラム「首長国」を宣言するかもしれないとも言われている。

 アルヌスラはIS同様、出自はアルカイダだが、ISが反シーア派、ライバル組織の殲滅、これ見よがしの残虐性に傾き、厳格なイスラム法を強制、「カリフ国」を性急に樹立し、グローバルな対西側蜂起を呼びかけるのに対し、アルヌスラは、反乱穏健派と連携、イスラム法の拘束は軽く、戦いの重点をシリアに置く。カリフ国の樹立はあくまで長期の目標だ。

 アルヌスラは7月にレバント征服戦線(JFS)と名称を変え、アルカイダからの離脱を宣言、シリアの他の反乱組織との合流を目指している。しかし、名称を変えてもアルヌスラはアルカイダの不可分の一部だ、と専門家は指摘。危険なのは、彼らが人々の支持を集めていることで、「このまま拡大を続ければ、本物の大衆運動になりかねない」、「十分な支持を得れば、欧州との境界に首長国を樹立できる。そうなれば、根絶は難しい」、と言う。また、これまでアルヌスラが西側を攻撃しようとした形跡はないが、対テロ関係者は時間の問題だと懸念する。

 JFSはスンニ派反乱の突撃隊として行動、また、その自爆要員はアサド政権の防衛線突破に威力を発揮した。他の反乱組織はJFSと共闘するしか道はなく、今やJFSは戦士7千人を擁し、シリアの諸反乱組織の要のような存在になっている。

 ISと同様、JFSは支配地域では疑似政府として活動。道路建設、電線補修、水の供給、インフラ再建、市場のパトロール、食料補助、製粉所等の運営、イスラム教育や医療の提供などに携わっている。

 JFSは他の反乱組織より腐敗は少ないと思われており、また、人々の生活にはあまり介入しない。そうしたJFSを自分たちの財産を守れる唯一の反乱組織と見る者は多い。アルカイダの指導者、ザワヒリは、既に2013年の時点で戦士たちに節度を要請、重要なのは米国を叩くことで、地元政府(アフガニスタン、パキスタン、ソマリア、サウジアラビアを除く)との衝突、シーア派との闘争、非イスラム少数民族への介入は避けるよう言っている。

 不要な摩擦の回避から住民福祉への重点の移行は、アルカイダの現実主義の新たな段階を示すものだろう。

 米軍の攻撃に苦しめられ、地元の紛争に巻き込まれたイスラム過激派は、9.11以降、西側に大規模攻撃を仕掛けられずにいるが、この15年でテロ組織は世界中で数も行動もかつてなく拡大深化したと専門家は言う。

 そうした中、ISとアルカイダは役割が入れ替わるかもしれない。カリフ国が破壊されれば、ISは世界各地に散り、かつてのアルカイダのようにグローバル・ジハードを目指す可能性がある。一方、アルカイダは、シリア戦争が妥当な解決に至らなければ、シリアに一層深く根を下ろすだろう。将来、首長国を樹立するようなことがあれば、それは地元住民に強く支持され、従って、野蛮なISカリフ国よりも根絶は難しくなるかもしれない。

出典:‘The other jihadist state’(Economist, September 17-23, 2016)
http://www.economist.com/news/international/21707208-eclipsed-islamic-state-al-qaeda-may-be-making-comeback-more-pragmatic-and


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