2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年10月11日

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙の9月6日付け社説が、中国がG20サミット期間中にスカボロー礁に疑わしい船舶を派遣したことに強い懸念を示し、健全な米比関係の重要性を訴えています。要旨、次の通り。

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フィリピンは属国ではない

 中国は、杭州でのG20サミットの開催期間中に南シナ海における領有権主張を拡大した。G20サミットの前夜、中国は、スカボロー礁に大船団を展開し始めた。中国は、6カ月前に同海域に測量船を初めて派遣し、米国の度重なる警告と戦闘機の展開を受けて中止したが、それに続く動きである。

 ロレンザーナ比国防相は9月4日、中国の新たな船団の写真を公開、4隻の海警の艦船と6隻の民間船に見えるが偽装した軍艦の可能性がある艦船が含まれるとした。同国防相は、中国がスカボローで何かを建設しようとするならば、安全保障上さらに深刻な悪影響がある、と述べた。

 スカボローへの中国の軍事基地建設は、年間5兆ドルの物流がある南シナ海中央部のシーレーンを中国が支配する能力を高め、米軍にもいくつかの軍事基地が開放されているフィリピンのルソン島にも脅威となる。

 7月に国際仲裁裁判所は、中国によるスカボローを奪取、フィリピン漁民の同海域からの締め出しは、フィリピンの主権を侵害していることになる、と判決した。中国がスカボローへの建設工事で対抗することは予測されていたが、ほとんどの海外の専門家はG20が終わるまで中国は待つものと見ていた。世界中の首脳が中国に集まっている最中に疑わしい船舶を展開したことは、とりわけオバマ大統領への冷たい一撃である。オバマは、3月にワシントンで習近平と会談した際、スカボローについて警告していた。

 今夏の公開スピーチで、中国の有力な学者で政府アドバイザーの金栄(Jin Canrong)は、中国はスカボローで建設をするだろうが、2018年に習近平が次期党大会で権力基盤を強化するチャンスを得た後のことになるだろう、と予測していた。同氏は、「我々がスカボロー礁を埋め立てれば危険である。米中対決を30年早めることになる」と言っている。

 こうしたことは、地域の不安定化の砦だがドゥテルテの反米感情もあり最近複雑化している米比同盟に、我々の目を向けさせる。ドゥテルテは、2000人の容疑者が警官や自警団に殺害されたとされる麻薬撲滅キャンペーンに対する米国の批判について「フィリピンは属国ではない。我々は米国の植民地でなくなって久しい」と述べるとともに、タガログ語の卑俗な表現でオバマを侮辱した。

 オバマがラオスでの二国間首脳会談を取りやめ、ドゥテルテが「後悔」を表明したのは正しいが、この大騒ぎは、米国の同盟関係を破壊し西太平洋での優位を狙っている中国に、不必要なプレゼントを与えることとなる。中国がフィリピンの主権を侵し続けるに従い、ドゥテルテは米国の価値をより認識するようになるかもしれないが、米比間の健全な紐帯の価値は既に明白である。

出典:‘Pacific Shoals of Trouble’(Wall Street Journal, September 6, 2016)
http://www.wsj.com/articles/pacific-shoals-of-trouble-1473203623


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