9月1日付のワシントンポスト紙に、同紙コラムニストのザカリアが、論説を書き、オバマが一人でアジア重視政策の主要な部分、TPPの締結を主張していることを描写し、評価しています。ザカリアの論旨は、次の通りです。
21世紀を規定する場
オバマ訪中の直接の目的はG20への出席だが、より重要な目的はアジアへの軸足移動政策に命を吹き込むことにある。しかし、今やオバマがそれを推し進めようとする意志を持つ最後の人になってしまった。
21世紀を規定する場となるのは、アジア太平洋である。世銀によれば、今後10年の経済大国ランキング上位5カ国のうち、4ヵ国はアジア太平洋の国が占めることになる。米国は自らが活気ある太平洋国家であり続ける限り、21世紀を形成することができるだろう。
では、米国のこの地域へのアプローチはどのようなものであるべきか。中心的な仕事の1つは、中国の地域支配を阻止することである。これは、中国が南シナ海などで拡張主義的動きを見せていることによって、よりやりやすくなっている。中国は真空の中で台頭しているのではない。アジアは混み合った地域である。中国の侵略的な動きは、ベトナムやフィリピンなどの近隣諸国の反感を生み、インドもその方向に動いている。オバマ政権はまた、伝統的な同盟国である日本、豪州、シンガポールとの安全保障協力も強化した。
ワシントンの政策は封じ込めではない。中国はアジアのソ連ではなく、むしろ最も重要な貿易相手国である。キャンベルは著書『ザ・ピボット』の中で、「(ピボット政策とは)40年にわたりアジアの繁栄と安全を支えてきた複雑な法、安全保障、実務取り決めを強化することである」と書いている。これは、航行の自由、自由貿易、多国間組織、透明性と責任、紛争の平和的解決を意味する。
キャンベルは、これらのうち今最も重要なのが貿易だと指摘している。TPPはアジアへの軸足移動の必須条件である。TPPは成長を加速させ、米国の同盟を強化し、中国に強力なシグナルを送ることになるが、最も重要なのは米国流のやり方で21世紀のルールを書くということだ。もしTPPがなければ、中国が我々とは大きく異なる形のルールを描いていくことになってしまうだろう。
だが、TPPはあらゆる方面から攻撃を受けている。サンダースとトランプはTPPに真っ向から反対し、クリントンもライアン下院議長もTPPが基準を満たしていないと述べている。貿易取り決めで米国が損をしているとのトランプなどの主張は、何もこれについて知らない人のみが主張できる。単純な事実として、米国は世界で最も大きな市場を持っており、それをテコに例外扱いなどを求めている。TPPも例外ではない。アジア諸国が諸々の譲歩をした。交渉の結果、彼らの市場がもっと開放される。
サンダースが、世界中の何億もの人々を貧困から救った貿易政策を批判するのは不思議である。トランプが、何を本当に信じているのかは誰も知らない。最も重要なのはクリントンとライアンだ。彼らは間違っていることを知っている立場を、恥知らずにも採用している。オバマは、アジア・ピボットとともに、米国の国益を追求し続けている。しかし、ポピュリズムと保護主義、孤立主義で満ちているワシントンで、オバマは今一人ぼっちになっている。
出 典:Fareed Zakaria ‘Barack Obama is now alone in Washington’ (Washington Post, September 1, 2016)
https://www.washingtonpost.com/opinions/barack-obama-is-now-alone-in-washington/2016/09/01/4d2e1348-7080-11e6-9705-23e51a2f424d_story.html?utm_term=.dba444111f73