2024年4月19日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2016年10月20日

 ISが本拠地のシリア、イラクで劣勢に立たされている間、アルカイダの各地の支部、特にシリア支部のアルヌスラ(最近レバント政府戦線〈JFS〉と名称を変えた由)は、活動を活発化させ、支配地域で疑似政府として活動しているとのことです。

 JFSには、ISとの対称が目立ちます。ISが残虐性で知られているのに対し、JFSについては、指導者のザワヒリが「節度」を要請しているといいます。ISが支配地域で厳格なイスラム法を強制しているのに対し、JFSは住民福祉を重視しています。上記記事にはありませんが、ISが中東、欧州などから広く戦闘員を募っているのに対し、JFSはそのような募集は行っていません。

住民の福祉を重視

 アルカイダ全体を見た場合、注目点が二つあります。一つはシリアです。シリアのアサド政権打倒は当面のアルカイダの最優先課題であり、JFSを通じ攻勢を強めています。JFSは反アサドの反乱グループの要のような存在になっており、今や他の反乱グループはJFSと共闘するしかありません。いま一つは、アルカイダがイスラム「首長国」を宣言するかもしれないという点です。アラブ世界で地盤を確保するのがザワヒリの夢とのことです。当面の重点はシリアでの戦いで、首長国の樹立は長期の目標であるとされており、おそらく今のシリアの支配地域での疑似政府の延長線上で考えているものと思われますが、首長国の樹立は領土を支配することを意味し、領土を持つことはISの例が示すように敵の攻撃を受けやすくなり、弱みになり得ます。

 JFSを中心とするアルカイダの勢力拡大は、米国をはじめとする西側にとって頭が痛いことです。シリアのアサド政権打倒ではJFSと米国の利害は一致しますが、JFSがシリアの反政府勢力の要になることは、穏健派反政府勢力を支持してきた米国にとって好ましくありません。米国がJFSを攻撃すれば、反政府グループの力を削ぐことになるでしょう。当面米国は目に見える敵であるIS掃討に全力を挙げていますが、究極的にはアルカイダも敵です。

 アルカイダの現在の重点はシリアですが、その源はイラクにおける米軍に対する聖戦でした。ザワヒリは米国を軍事的、経済的に叩きのめすことが最終目的である、と言っています。シリア情勢の混迷が続く限り、JFSはシリアで一層勢力を拡大するでしょう。ISと違って住民の福祉を重視しているので、住民の強い支持を得ています。それだけに米国にとっては手ごわい相手となるでしょう。

  
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