金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の異母兄である金正男(キム・ジョンナム)氏が2月13日(火)午前、マレーシアのクアラルンプール国際空港で殺害された。韓国・国家情報院長は事件について、「金正恩政権発足後、継続的な暗殺指示があった。5年前から暗殺を試みていた」と報告し、北朝鮮の犯行であることを指摘した。
暗殺チームを送り出した「偵察総局」
犯行時の状況や実行犯については様々な情報が飛び交っており、現時点で全容は明らかになってないが、一つ確実に言えることは、犯行には北朝鮮の工作機関「偵察総局」が関与しているということだ。
偵察総局とは、2009年に朝鮮人民軍と朝鮮労働党の工作機関や特殊部隊を統合した北朝鮮最大の工作機関で、海外での情報収集や破壊工作、サイバー攻撃を任務とする。そして、偵察総局には要人暗殺を専門とする「暗殺組」という組織も存在する。「暗殺組」の実態は不明だが、数十人の暗殺専門工作員が所属するといわれる。
この「暗殺組」は、黄長燁(ファン・ジャンヨプ)元朝鮮労働党書記を暗殺するため、脱北者に偽装して韓国に入国した工作員が2010年に逮捕されたことで、存在が明るみに出た。逮捕された二人の工作員は、金英哲(キム・ヨンチョル)偵察総局長から「黄長燁を殺害しろ」と指示を受けて、黄元書記の所在地や行動を調査していたという。
「暗殺組は、偵察総局の中から射撃や撃術(徒手格闘)を得意とし、胆力がある者が選ばれる。素手でも銃でも暗殺できるが、主な手段は神経毒を仕込んだペン型の暗殺器だ。ターゲットに接近し、通り過ぎざまに毒針を突き刺す、あるいは毒ガスを浴びせる。ターゲットは一瞬で死に至るが、毒性を制御することで数秒から数分で死亡するように調整することもできる」(韓国・国家情報院関係者)
金正男氏殺害現場を録画した監視カメラには、背後から近づいた女性が同氏の顔面をハンカチのようなもので覆った姿が映っているという。正男氏はヨダレを垂らしながら空港職員に助けを求めたが、これは神経毒特有の唾液多寡症状が現れたものだ。その後、彼は救急車到着を待たずに心停止した。