世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2017年4月10日

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 ワシントン・ポスト紙の3月5日付け社説が、トランプ政権の貿易政策対議会報告を、正しい分析からは程遠く、TPPのような米主導の多国間協力こそが最善の道であり、一方的に「主権」や「保護」を主張することは盲目的だ、と批判しています。要旨、次の通り。

(iStock)

 トランプ政権は選挙中の保護主義的主張を堅持していくようだ。先般公表された「2017年貿易政策課題」は、ライトハイザー通商交渉代表とナヴァロ国家通商会議委員長の影響を反映したものとなっている。6ページの政策表明は冷戦後の米国の貿易政策への批判を繰り返している。NAFTA(北米自由貿易協定)やWTO(世界貿易機関)等の多国間貿易協定と制度は米の主権を犠牲にし、製造業の分野で米の雇用を犠牲にしたと批判する。

 この議論は正しい分析からは程遠い。確かに製造業の雇用は2000~16年の間に1720万から1230万に減少した(2000年は中国のWTO加盟の前年)。しかし、この雇用減少の原因が、米国だけではなく世界的にみられる生産の自動化その他長期的な要素よりも、100%WTOなど貿易取決めにあるとするかどうかは別問題だ。

 カリフォルニア大学バークレー校のデロングは、ここ20年の製造業での雇用減少は朝鮮戦争後から見られる歴史的趨勢の結果だとしている。非農業雇用の中での工場雇用は53年に32%だったが、NAFTAや中国登場のずっと前の90年に既に16%に下がっている。ドイツでも、1970~2015年の間に工場雇用は半分に減少した。

 このことは、既存の貿易取決めを再交渉しても、またトランプ政権が示唆するように米国の利益に沿わない裁定がWTOで下される場合にはそれから離脱しても、利益はほとんどないことを示している。反対にデロングは中国のWTO加盟とNAFTAによるネットの雇用喪失は、1億5000万の総雇用人口の中の約50万人程度だったと計算している。

 我々も輸入により履物や家具製造等の軽工業が被害を被ったことに異を唱えるものではないし、中国との貿易が一党独裁国家での法の順守や透明性を増進することにはならなかったとのトランプ政権の主張に反駁するものではない。しかし、中国の重商主義に対抗する最善の道は正にトランプが拒否したTPPのような米国に主導された多国間協力である。

 トランプ等は、過去の政策立案者は「地政学上の利益のために不公正貿易慣行を盲目的に甘受してきた」と非難する。しかし、地政学的考慮も実は紛争を最小化しながら米の利益を増進する世界を作るというものだったのである。盲目とは、他国の正当な利益や他国による報復も考慮しないで一方的に「主権」や「保護」を主張することだ。

出典:‘Trump’s blindness on trade is all too easy to see’(Washington Post, March 5, 2017)
https://www.washingtonpost.com/opinions/trumps-blindness-on-trade-is-all-too-easy-to-see/2017/03/05/4f576298-0052-11e7-99b4-9e613afeb09f_story.html

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