しかし、TIを出たことによって、エルピーダメモリのCEOとなり、同社のDRAMのシェアを1・9%から19・9%に上げて、雇用の拡大などに貢献することができた。TIに残っていたら、仕事のモチベーションを保つことは難しく〝廃人〟になっていたかもしれない(笑)。客観的にみれば、TIにとっても「老害」が去り、若い活力のある組織になり、競争力が向上したと言える。
今や売上高3兆円超を誇る世界最大の半導体製造ファウンドリである台湾のTSMC(台湾積体電路製造)の創業者であり、「経営の神様」と崇(あが)められているモリス・チャン(張忠謀)董事長も私と同じTIのリストラ組である。TIが日本企業のような人事制度であれば、「経営の神様」は窓際族としてサラリーマン人生の余生を過ごしていたかもしれない。
モリス・チャンのような大成功例だけでなく、他の企業へ移ってこれまでのキャリアを生かして活躍した元同僚も数多くおり、間違いなくそのままTIに残るよりもいい人生を過ごせているように思う。
閑職について何年か経つと、その間にその人物の市場価値は暴落する。一線級で働いているときに会社を出ることにより、好条件で転職できるだろうし、活躍もできる。年功序列を前提とした制度の場合、ある程度の年齢になってから大量の従業員を「飼い殺し」にせざるを得ない。飼い殺された従業員は、企業が傾いたときにリストラされることになるが、そのときには第一線から遠ざかって何年も経つので、採用もされにくいし、活躍することも難しいだろう。
企業の枠を超えて国家全体でみても、40~50歳を一つの区切りにすれば、大企業が必要以上に人材を抱えこむことはないし、成長産業に人が流れ、新産業が活気付く可能性もある。日本で存在感のあるベンチャー企業がなかなか出てこない背景には、こうした日本の人事制度も少なからず影響していることだろう。
社長が基本的に一人しかいないように、企業の上位ポストの数は限られるため、日本企業で多く見られる年功序列、終身雇用を前提とした人事制度だと、大量に働く必要がない人材が出てきてしまう。
「働かないおじさん問題」がときどき話題になるが、日本企業は社内失業者とも言うべき「働かないおじさん」を量産する仕組みになっているのだ。日本の大企業の人材囲い込みは国家全体でみると大きな損失を生み出している。
今の日本は人手不足が深刻で、40~50歳でリストラ対象になったとしても、仕事がなくて困ることはない。今こそ40歳代定年制の議論をすべきである。
聞き手・構成/Wedge編集部 伊藤 悟
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