前向きに読み解く経済の裏側

2017年5月1日

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塚崎公義 (つかさき きみよし)

久留米大学商学部教授

1981年、東京大学法学部卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。主に調査関連部署に勤務した後、2005年に銀行を退行して久留米大学へ。著書に『増補改訂 よくわかる日本経済入門』(朝日新書)、『老後破産しないためのお金の教科書』(東洋経済新報社)、『世界でいちばんやさしくて役立つ経済の教科書』(宝島社)、『なんだ、そうなのか! 経済入門』(日本経済新聞出版社)など多数。

金融庁が金融事業者に対し、顧客本位の業務運営を指導

 金融庁は本年3月、「顧客本位の業務運営に関する原則」を発表し、金融事業者(金融商品の販売、助言、商品開発、資産管理、運用等を行う全ての金融機関等)が顧客本位の業務運営に当たるべきだ、としています。ポイントは「顧客の最善の利益の追求」で、具体的な原則として「顧客本位の業務運営に関する方針の策定・公表等」「顧客の最善の利益の追求」「利益相反の適切な管理」「手数料の明確化」「重要な情報の分かりやすい提供」「顧客にふさわしいサービスの提供」「従業員に対する適切な動機づけの枠組み等」の7つを掲げています。

 一読すると至極マトモなことを言っているようですが、本当にそうでしょうか? 他の業界を所掌する官庁が顧客本位を業界に説いているという記憶がないのですが、なぜ金融庁だけが顧客本位を業界に説くのでしょうか? その理由について考えてみましょう。

(iStock)

リスクの説明と手数料の説明は異なるはず

 顧客に物を売る時に、リスクの説明をするべきであるのは当然のことです。家電製品には詳細な取り扱い説明書が付いていますし、健康食品には「摂り過ぎは体に毒です」と書いてあります。こうした点については、各業界を所管する官庁や消費者庁などが厳しく指導しているはずです。金融商品についても、金融商品取引法が顧客のリスクについてしっかり説明するよう、定めています。たとえば契約締結前に書面を交付して、「損失を生じることとなるおそれ」や「損失の額が、顧客が預託すべき保証金などの額を上回ることとなるおそれ」があるときは、その旨を記載しなければならない、としているわけです。

 しかし、販売者の利鞘、利幅、手数料などについては、一般に公表されていません。自動車販売会社が100万円で売っている自動車を何円で仕入れたのか、表示することはないでしょう。レストランがメニューに価格を掲載する時、並べて材料費を記すこともないでしょう。「お勧めは?」と聞く客に、一番利幅の高い商品を勧める店だってあるはずです。それに対して、自動車販売会社やレストランを所掌する官庁から「利幅を公表し、顧客に最も有利な商品を勧めよ」という指導がなされたという話は聞きません。

 金融機関は、投資信託の販売手数料は開示していますし、外貨預金の際の外貨の売値(設定時)と買値(解約時)を公表していますから、一般の事業者より遥かに情報開示を行っているのに、なぜ今さら金融庁から指導を受けなければならないのでしょうか?

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