特別対談企画「出口さんの学び舎」

2017年5月19日

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ライフネット生命会長・出口治明さんが「歴史」や「教養」をテーマに、さまざまな有識者をゲストに迎える対談企画「出口さんの学び舎」。技術革新やグローバル化により変化の激しい現代で、ぶれない軸を持って生きていくために必要なものとは何か、対話を通じ伝えていく――。

池谷裕二(脳科学者)×出口治明(ライフネット生命会長)
第1回 
人工知能に、人の真似をさせるのは間違っている
第2回 脳はじゃじゃ馬、多少くじ運が悪くても乗りこなすほうが面白い
第3回 記憶力を鍛えるのは入力じゃなくて出力です
第4回 
脳の中にはダークエネルギーがある


 

 

取り出す練習をすることで、記憶は使えるようになる

出口:僕は最近、よく物忘れをしてしまうんです。この前の講演会でもライス元国務長官の名前が出てこなくて、つい「あの、黒人の優れた……」とか言ったら、会場から「ライスさん」と教えてくれて「ありがとうございます」ってなったりしました。

池谷:わかります。

出口:どうすれば忘れないようにできるんでしょう?

 

池谷:これはもう、仕方がないと思うんです。誰にでも起きますから。あえて言えば、忘れないためには「思い出す」訓練をすること。一応、私は記憶が専門なので、厳密にはいろいろ申し上げたいことはありますが、そこに尽きます。多くの人は「記憶」というと、詰め込むもの、覚えるもの、入力するものだと勘違いしています。しかし、記憶力は出力しないと鍛えられない。

出口:頭の中に入っているものですよね。

池谷:学校の勉強は詰め込みがすごいのですが、取り出しの練習はしません。でも、取り出す練習をすることによって、記憶って使えるようになるんです。受験中に思い出さなければ覚えてないのと一緒です。

出口:たしかに。

池谷:だから、思い出す訓練をしないといけない。どうしても覚えておきたいものは、何度も思い出す訓練をすることだと思います。

出口:それ、覚えがあります。小学生のとき平家物語がすごく好きで、ときどき平家の系図を頭の中で描いていました。正盛、忠盛、清盛って。

池谷:ずいぶん変わった小学生ですねえ(笑)。

出口:先生に言われて気付いたんですけれど、これは思い出す訓練をやってたんですねえ。

池谷:おっしゃる通りですね。それはリトリーバルトレーニングと言われています。この方法が効率的だと科学的に証明されたのは、実は、10年くらいしか経っていません。学校では、「まとめノートを作りなさい」とか「自分の取ったノートを見直しなさい」と言われるじゃないですか。

出口:ええ。

池谷:でも、これまでにいかなる勉強法よりもリトリーバルトレーニングが一番点数が高いというのが証明されています。

出口:思い出す訓練を一所懸命するんですね。

池谷:最近の『Science』誌でこんなレポートがありました。単語を覚えるだけなんですけど、3秒に1回くらいパッ、パッ、パッ、パッ、パッ、パッと連続50個見せて、「はい、おしまい。明日思い出してください」と言うんですね。

 面白いのは、その後2つのグループに分かれて、「もう1回復習してもいいですよ」と言って、1グループはもう一度同じように見せる。もう1グループは見ないで、「何があったかできる限り思い出してください」と、単語を言わせるんです。

出口:なるほど。

池谷:間違ったとしても、「それはちがう」とか絶対に言わない。ただ、できる限り思い出します。次の日になると歴然です。思い出したグループの点数が高い。直後に2回目を見たグループは、「ああ、これは、さっきもあった」と思うので、「明日は僕のほうが点数が高い」と思うらしいのですが。

 

出口:すごく面白い。インプットじゃなくてアウトプットなんですね。

池谷:他にも論文がいろいろあって、たとえば小説を読んでもらって、1回読んだグループ、2回読んだグループ、3回読んだグループと分かれて、その内容のテストをする。当然ですが、読んだ直後は3回読んだグループが一番よく覚えています。

 ところが1週間とか1か月経ってテストすると、点数に差が全然なくなるんです。つまり、何度も読んだからといってよく覚えられるわけじゃない。入力を繰り返しても点数は上がりません。

出口:なるほど、学校教育でそのまま使えますね。同じことを何回も教えて「忘れたらアカンで」といってもアカンって。

池谷:教える側の先生は、何度も出力するから定着するんですけどね。

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